夏の想い出

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◆◆◆ あれから佐野は、約束通り勉強を教えてくれた。 普段は図書室で勉強していたが、佐野に勉強を見てもらうことになり、教室ですることが増えた。 僕としては、一回だけ苦手な部分を教えてもらうつもりだったが、思いの外佐野が乗り気で、週に2回くらいのペースで見てくれている。 逆にこっちが申し訳なくなってしまうくらいだ。 一度それを伝えたことがあったが、『自分の復習になるから』と言われてしまい、何も言えなくなってしまった。 最近では、たまに佐野の友達も面白半分で僕たちの勉強会に飛び入り参加することもあった。 今日も、暇を持て余しているのか、わらわらと集まってきていた。中にはお菓子の袋を開け始める人までいる。 皆怖い人ではないが、クラスの目立つ人たちばかりで、正直緊張する。 「そういや大和と月島っていつからそんなに仲良くなったん?」 「そりゃあクラスメイトですし、隣の席ですし。自然な流れよ。」 「この子小動物っぽさあって可愛いよなぁ。」 「つーか月島、数学苦手過ぎん?それ答え違うよ。」 穂高という、一番佐野と仲の良いらしい人に声を掛けられドキリとした。 綺麗な栗色の髪をしていて、目鼻立ちが整った人だ。 よく佐野と一緒にいるところを見かけるが、二人が並んだ時の無敵感は凄い。 「…僕は文系なので。」 「古典で泣き言言ってたのはどこの月島さんだっけ。」 「うるさい…!」 話を聞いていた佐野が、ニヤッとしてこっちを見た。 瞬間、顔が火照るのを感じて視線を外した。 顔を見ると思い出してしまう…。 この前保健室まで付き添った時、目が覚めると何故か僕は佐野と一緒に寝ていた。 佐野は起きる気配がなかったからこっそり抜け出してきたが、未だにその時の事が忘れられない。 自分から話題にするのも気が引けたし、佐野からも特に何もない。 お互い触れずにいるが、それが余計に意識してしまう原因になっていた。 (…他にベッドが空いてなかったとか、気まぐれとか、そんな感じなんだろうな。きっと。) あまり意識しないように、そう理由づけをして逃げている。 本当にこの人は罪深い奴だ。 そんな僕の心情とは裏腹に、佐野たちは『帰りにどこか寄ろうぜ』と盛り上がっていた。 …勉強はどこに行った。 「月島は何食いたい?」 佐野に聞かれ、驚いた。 僕も入っていたのか。 「え、僕も行くの?」 「え、俺等が共に勉強と奮闘した仲間をハブるような冷たい奴等だと?」 「うーわ、大和の普段の行いのせいで俺等のイメージ最悪だったりするんじゃねぇの。」 「穂高はそのまま帰れよ。」 そうなのか、僕も誘ってくれるのか。 入学してから友達らしい友達はいなかったから、こうやって放課後に同級生と遊ぶのは初めてだ。 僕に声をかけてくれたのが、ちょっと嬉しかった。
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