宣告

1/1
前へ
/20ページ
次へ

宣告

残念なお話をしますが、と重々しい雰囲気を醸しながら口を開いた担当医を前にして、俺はぼんやりと『あ、きたな』と察した。 隣には身体を強張らせて座る母親。 親を悲しませてしまう時が来たことにチクリと胸が刺痛んだけど、それ以外は特に気にならなかった。 「正直に申し上げて、大和くんの余命はあと1年ほどかと…。」 ああ、やっぱり。 帰りの車の中は妙に暑かった。 3月上旬、今年も家の庭に真っ赤なポピーの花が咲く季節。 この時期にしては随分と暖かい日なのに暖房をかけすぎだ。 母さんの今の心境を考えればそんな事言えないけども。 (つーかこの沈黙どうすっかな…。気まず。あの話の後にどんな事話せばいいんだっつーの。) こっそりと母さんの顔を盗み見るけど、真正面を向いて微動だにしないその様子からは何を考えているのかイマイチ分からなかった。 ここはやっぱり俺が…と話題を探し始めた時、ふいにお母さんが口を開いた。 「大和、高校に通うの?」 「え?あ、うん、そのつもりだけど。せっかく受かったんだし。」 「そう…そうね。貴方がそうしたいのなら私もお父さんも協力するわ。 でもこれだけは約束して。無理は絶対にしないこと。」 その口調は随分と力強い。 否は言わせないその雰囲気に俺は小さく頷いた。 病を押してまで通学しようと決めたのは、普通の生活を送りたいからで。 そのために『無理』が必要な時は、きっとしてしまうだろう。 別に今さら、運命に逆らってまで寿命を伸ばしたいとは思っていない。 勉強、遊び、恋。 それをたった1年で一生分を満喫しようとするのだから、慌ただしくなりそうだ。 気分を変えようと、窓を少し開けてみる。 頬を撫でる風が随分と優しくて気持ちよかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加