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第1話 家庭環境
「生まれた時から、僕は普通の人とは違う」
そう思ったのはいつからだろう。
僕の名前は綾瀬千冬、大学3年生。
僕は、心は男、体は女と性同一性障害という障害をもって生まれてきた。
『気持ち悪い』
『間違った体』
自分でも分かっている。
周りからの視線がとても怖くて障害を持っているなんて、誰にも話せなかった。
僕のお母さんは重度のうつ病だった。
僕の家は借金がたくさんあった。
そんな借金がある中で、学校から帰る途中に怖いおじさんから、
「お母さん、家にいるかな?」
と声を掛けられたり、急に知らない人から電話がかかってきた事がしょっちゅうあった。
毎日のように、夜逃げとか僕が幼稚園児の時とかは家賃が払えなくて大家さんに追い出され、よく引っ越してた。
それに加えて、僕には5歳上の兄がいる。
お兄ちゃんは勉強ができなくて、お金を出して通う塾もゲーセンに行ったりしてサボっていた。
家の借金もあり、お兄ちゃんの塾の費用あって、そんなこんなでお母さんはうつ病を発症した。
僕が小学1年生の時、お兄ちゃんがお母さんに靴べらや傘で叩かれているのを見た。
(……お母さんを止めなきゃ)
そう思っても、僕もお母さんに叩かれるんじゃないかと思って怖くて何もできなかった。
お兄ちゃんとお母さんがものすごく言い争っている時、僕は思ったんだ。
『お兄ちゃんがダメな人間だったからこそ、僕はできる人間にならなきゃいけなかった』
そういうプレッシャーが小学1年生ながらにして思ってた。
『親に迷惑をかけないいい子でいなきゃ…』
って思って頑張っていた。
でも、どんなに努力して頑張ってても親は認めてくれなかった。
バカな子ほど可愛いってよく聞くけど、まさにその通りだと思い知らされた。
だって、お母さんは僕よりお兄ちゃんの方が大事だからだ。
今でも、凄く覚えてることがある。
それは、ある日お母さんが
「貴方とお兄ちゃんが同時に死にそうになったら、私はお兄ちゃんを助けると思う」
そう僕に言ってきた。
僕は、
(…そうなんだ)
って思った。
お兄ちゃんの方に目がかけられてて、僕はほっとかれてた。
僕にとって、頑張ることとか、人より優れていなきゃいけないっていうのが、人に迷惑をかけないための方法でしかなかった。
人に愛されるってことがあんまりよく分からなくて、でも僕は愛されていたと思う。
僕のお母さんは結構過保護だし、お父さんも優しい人だったから。
でも、1番ってのがなかったから、愛されることがイマイチ、ピンと来なくて不安だらけだった。
そして、僕の家庭環境はものすごく変わっていった。
お兄ちゃんの受験期が、1番家が荒れる時だった。
僕は、
(もう、誰も怒らせないようにしよう…顔色伺おう…)
みたいな…。
あまりにも怖かった僕は、いつもより大人しく過ごそうと思った。
けど、僕はお母さんとお兄ちゃんが喧嘩している中に入って、
「2人とも、落ち着いて話そうよ、喧嘩になっちゃうよ」
とか言って、当時の僕が口を挟んだら、
お兄ちゃんからは、
「お前は口出してくんな!」
って言われて、お母さんからは
「アンタの話は聞いてないのよ!!」
とか言って、凄い怒られた。
(あ…僕に発言権はないんだな)
って思った。
意見を言うことって怖いことで、怒られるって思ってたから、気付けば僕は相談のできない子になっていた。
「なんでこんなに言われなきゃいけないの?僕は家族で仲良く暮らしていきたいだけなのに…」
そう、僕はただ家族と仲良く幸せに暮らしていきたいがために逆ギレされようと、家族の喧嘩に口を挟んだんだ。
(僕の家は他の人とは違うのかな?)
僕は、不安や恐怖、虚しさに胸が締め付けられていった。
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