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第3話 託された夢
中学に上がり、ガンの子の方は中学に上がったらへんで病気が悪化した。
名前は夏目と言って、周りを笑わせてくれるような元気で明るい子だ。
夏目は僕の誕生日の近くに亡くなった。
ある日、僕と夏目の2人で家で遊んでいる時、
「…千冬」
夏目が急に深刻な顔をして口を開いた。
「どうした?」
そう僕が聞くと、
「…俺さそろそろ死ぬみたいなんだ」
「…え」
その言葉を聞いた時、頭の中が真っ白になった。
(…どういうこと?そろそろ死ぬって…)
僕がふと我に返ると、夏目は話を続けた。
「俺さ、ガンだって説明したじゃん?昨日、病院に行ったらさ、お医者さんから…」
『ガンが予想していたよりもはるかに浸食が進んでいるようです。おそらく臓器も正しく機能できなくなるでしょう。治療も手につかないでしょう。』
「って言われてさ、俺の命は1年持つのかも、千冬の誕生日まで生きられるのかも分からないんだ…」
(…そういえば、1ヶ月後僕の誕生日だ。もし、誕生日を迎える前に夏目が死んじゃったらまた1人になっちゃう。夏目ともっと一緒に遊んだりしたいのに…)
と僕が寂しげな顔をして俯いている時、
「そんなに心配すんなよ!俺はガンなんかに負けるわけないよ。それに、千冬の誕生日は盛大に祝うつもりだしな!」
僕の頭を優しく撫でてくれて、笑顔でそう言ってくれた。
辛いのは夏目の方なのに、僕を元気づけるために言ってくれたんだと思う。
(僕も全力で夏目を応援しなきゃ!がんばれ、夏目!)
何回も何回も入院中の夏目に会いに行って、応援のメッセージを書いた手紙を渡したり、夏目がやりたい事を全力で応援した。
でも、そんな応援も報われる事はなかった。
夏目は僕の誕生日の前日に亡くなった。
ガンの手術で、それに耐えられなくなってどんどん弱っていき、亡くなった。
(…夏目)
僕はその日、目が赤く腫れるほど泣いた。
「ごめん、ごめん…」
そう夏目に謝り続けた。
夏目が亡くなった次の日、僕の誕生日の日、僕の家に手紙が届いた。
(誰からだろう…俺宛…?)
僕は手紙の裏に書いてある差出人の名前を見た。
「…!」
それを観た瞬間、僕は驚いた。
「どうして、死んだ夏目から……」
そう、その手紙の差出人は亡くなった夏目からだった。
手紙の内容は、
『誕生日おめでとう』
って書いてあった。
「…グス…なつめ…なつめぇ…」
僕はその手紙の内容を読んで泣いてしまった。
夏目の名前を呼びながら……。
「…グス…グス」
少しずつ涙が止まり、落ち着いたとき…。
(…?あれまだ手紙が…)
『誕生日おめでとう』の手紙とは別にもう1枚手紙が入っていた。
ゴクッ…。
「すぅー、はぁー」
(…よし)
僕はひと息ついてから、その手紙を開いて読んだ。
『千冬!改めて誕生日おめでと!!こんな形で祝うことになってほんとごめんな。ガッカリしたか?』
「ガッカリなんてするわけねぇだろバーカ(笑)むしろビックリしたし、泣いたじゃねーかよ」
『本当は千冬の誕生日は生きて盛大に祝うつもりだったのに…。でも、入院して手術を何回もしてるうちに俺の身体は限界に達してたみたいなんだ。だから、もしものために千冬宛に手紙を書いたんだ。それに誕プレも用意できなくて悪かったな!』
「僕の方こそ何もできなくて悪かった…。この手紙だけでも十分嬉しいよ」
『千冬と過ごした日々は一生忘れないぜ!…っていうか、お前は優しいし面白いし最っ高の友達だったぜ!いや、これから先もずっと友達か…(笑)』
クスッ
「僕だって、君と友達になれて幸せだったよ。クスッ…ハハッ!この手紙の書き方ほんとに夏目らしいや(笑)」
『千冬も俺が死んだからって落ち込むなよ?俺は死んでもお前のそばで見守ってるから。俺は千冬の心の中で生き続ける!だから、千冬も俺のこと忘れんじゃねーぞ!!』
「誰が忘れるかよ…」
(そうだよな…夏目は死んでも僕の心の中にいる。それだけでも僕の心の支えになる…)
『あっ!それと、お前はもう1人じゃないからな!まぁ、俺が死んだから1人かもしれないけど、絶対そんなことないからな!!必ず心を開ける人と巡り会えるはずさ』
「夏目のくせに良い事言ってくれるじゃん…」
『あとは、そうだな…。我慢ばかりするんじゃねぇぞ!』
「…え?」
『千冬は何でもかんでも我慢しすぎ!思った事はちゃんと言葉にしねぇと分からない事だってあるんだ。お前はいつも平気なふりをして、辛いのに辛いって言えなくて、誰かに助けることもしない。相談もしない。友達である俺にもだ!そんなお前を見るたびに俺は心が苦しくなる。』
(…夏目)
『人生何が起こるか分からねぇ…だからこそ千冬には我武者羅に生きて幸せな人生を歩んでほしいと思ってる。お前は誰よりも努力家で心の優しい奴ってことを俺は知っている。だから、俺の分まで生きて生きて幸せになってくれ…』
「相変わらず、僕のことは何でもお見通しなんだな…グス」
『それから、俺と友達になってくれてありがとな。誕生日おめでとう。大好きだよ、千冬!』
「僕も夏目が大好き……グス…グス」
最後まで手紙を読み終えた時、僕は涙が止まらなかった。
夏目と過ごした日々、それを思い出しながら何度も何度も読み返した。
だって、こんなに悲しくて嬉しいサプライズなんか想像できなかったのだから。
当然、友達からの手紙は嬉しいけど、同時に寂しくも出てくる。
それ以来、僕は自分の誕生日がくると悲しくなった。
僕は、自分の誕生日がくるたびに、夏目の手紙を読んで、泣いてを今まで繰り返してきた。
「…夏目、僕はちゃんと生きるよ。夏目の分も楽しく人生を過ごそうと思う」
そう思った出来事だった。
僕はある日、夏目が生きている時に約束した事があった。
「自分はもう死ぬし、夢を叶えられないから、代わりに声優になってほしい」
って……………。
僕は、
「どうして声優になりたいの?」
と聞いた。
夏目は、
「僕はこんな人間なんだからこそ、誰かに自分の声を届けて、少しでもその人の力になればいいなって思ってるんだ。僕がまだ小学4年生の時、両親が毎日のように喧嘩していて何もかもが嫌になっていた時、テレビに出ていた声優がこう言ってたんだ」
『人は幸せになるために生まれてきたんだよ』
『出会う事で可能性が広がり、別れる事で、器が広がる。今は分からなくても分かる日が来る』
「そう言ってたんだ。生きている中で幸せは必ずあるし、誰かと出会って可能性が広がっていくんだって、その言葉で俺は生きよう!って思えたんだ。だから、演技だろうが、本心であろうが、その言葉が嬉しくて、俺もその人みたいに俺を勇気づけてくれたようになりたいって思ったんだ」
そう熱心に話し続ける夏目を見て、
(声優になりたいって意外だったけど、夏目は本当になりたいって思ってるんだなぁ)
なんて思ったから、僕は
「分かった!絶対夏目の夢を叶えるよ!夏目の話を聞いていくうちに僕も声優に興味が湧いてきたよ」
って夏目の手を強く握って言った。
夏目が僕を信じて、託してくれた夢だから何が何でも叶えようって思った。
それがきっかけで僕は中学で演劇部に入った。
(少しでも声優の道が開けるといいな…)
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