夏の約束

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夏の約束

澄み渡る青空の下、太陽が照りつける真夏の日。広がる緑の草原の中、風に揺れる草の波間に、一つの小さな影が浮かんでいた。それは、麦わら帽子をかぶった少女だった。 彼女の名前は紗奈。長い髪を風にまかせ、いつものように草原の中を歩いていた。麦わら帽子は、彼女の祖母から譲り受けたもので、毎年夏が来るたびに大切にかぶっていた。 「また、あの場所に行こうかな……」紗奈は一人つぶやいた。 草原の奥には、大きな古い木があった。そこで、紗奈は子供の頃にたくさんの時間を過ごした。木の下に座りながら、いつも一緒に遊んでいた友達、智也との思い出がよみがえる。彼もまた、夏になると同じような麦わら帽子をかぶって、二人で一緒にかくれんぼをしたり、昼寝をしたりしていた。 「智也……元気にしてるかな?」 智也とは、小学校を卒業してから疎遠になってしまった。それぞれの道を歩むうちに、連絡を取り合うこともなくなった。でも、紗奈は毎年夏が来ると、彼との思い出がよみがえり、無性にあの古い木の下に行きたくなるのだ。 紗奈が木にたどり着くと、そこで一人の青年が立っていた。背中を向けていた彼は、まるで何かを待っているかのように木を見上げていた。その姿を見て、紗奈の胸が高鳴った。 「智也……?」 声に反応して振り返った青年の顔は、間違いなく智也だった。彼もまた、あの日と同じ麦わら帽子をかぶっていた。 「紗奈……久しぶりだね。」 「うん、久しぶり……」 二人はしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて智也が優しく微笑んで、手を差し出した。 「もう一度、あの夏みたいに一緒に過ごさないか?」 その言葉に、紗奈は迷うことなく手を取った。二人は再び、あの木の下で夏の風を感じながら、かつての子供時代のように無邪気に笑い合った。 麦わら帽子の影の中で、二人の笑顔は、まるで時間が止まったかのように輝いていた。夏の約束は、今も変わらず、二人を繋いでいるようだった。
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