裏切りの果てに

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裏切りの果てに

亮太は部屋の隅で膝を抱えながら、ゆっくりとした呼吸を整えていた。彼の隣では、愛美がスマホをいじりながら笑っている。何か面白いことでもあったのだろうか。その笑顔が、亮太の心に鋭く突き刺さる。 「亮太、ねえ、見てよ。これ面白くない?」愛美がスマホの画面を亮太に見せようとするが、彼は無言で首を振る。 愛美は、亮太にとって理想の女性だった。美しく、明るく、どこへ行っても注目を集める 存在だった。しかし、彼女にはひとつの大きな欠点があった。それは、彼女が浮気を繰り返すことだ。 最初にそれを知ったとき、亮太は激しい怒りと悲しみに襲われた。だが、彼女は涙を流しながら謝り、「もう二度としない」と約束した。それを信じた亮太は、彼女を許すことにした。 しかし、それが彼の過ちだった。愛美の浮気は終わることなく、むしろ頻繁になってい った。彼女はいつも他の男たちと楽しそうに過ごし、そのたびに亮太の心は壊れてい った。 「また...?」亮太は心の中で何度もその言葉を繰り返す。彼女が帰りが遅い夜、スマホの通知音がひっきりなしに鳴るたびに、亮太は愛美がまた誰かと会っているのだと理解した。 そして、それを知りながらも、亮太は彼女を責めることができなかった。愛美が自分の 元に戻ってくるたび、彼女の微笑みや優しい言葉に心が揺れ、結局はまた彼女を許してしまう。それは、彼が彼女を本当に愛してい るからなのか、それともその不誠実さにどこかしら興奮を覚えているのか、自分でも分か らなくなっていた。 その夜、愛美はいつものように遅くに帰って きた。化粧が少し乱れているのを見て、亮太 はまた何があったのかを悟る。だが、何も 言わずにただベッドに横たわる彼女を見つ めた。 「ねえ、亮太。」愛美が小さな声で囁く。「今日も楽しかったよ。あなたといると安 心するんだ。」 その言葉に、亮太の胸は締め付けられるような痛みを感じた。そして同時に、心の奥底から奇妙な興奮が湧き上がってくる。彼女が他の男たちと過ごした後、自分の元に帰ってくるという事実に、どうしようもない背徳感を覚えていた。 「愛美...」亮太は彼女の髪に手を伸ばし、その柔らかさを感じながら囁いた。「どうして、僕のことをそんなに傷つけるんだ...?」 愛美は一瞬驚いたように亮太を見つめた が、すぐににっこりと微笑んだ。「ごめんね、亮太。でも、私、あなたのことが本当に好きなのよ。」 その笑顔に、亮太は言葉を失った。彼女が自分を本当に愛しているのか、それともただの気まぐれなのか、もはや確かめるすべもない。だが、そんな彼女を手放すことはできなかった。 「もういいんだ... 何も言わなくていい。」亮太は愛美の手を取って、その柔らかな肌の感触を味わった。「君が戻ってきてくれた、それだけでいい。」 愛美は何も言わずに亮太の胸に顔を埋めた。二人はそのまましばらくの間、静かな時間を過ごした。亮太は自分がどれだけ愚かで、どれだけ壊れているのかを理解していた。しかし、その壊れた感情の中でしか彼女を愛することができない自分に気付いていた。 彼女の裏切りに傷つきながらも、そのたびに自分を傷つけることでしか愛を感じられない。亮太はその狂気に取り憑かれてい た。そして、愛美もまた、その歪んだ愛に縛られていたのかもしれない。 朝が来ても、二人は何も変わらない。彼女はまた浮気を繰り返し、亮太はまたそれを許す。それが二人の関係だった。 亮太は自分の中で芽生える異常な感情に気付きながらも、それを止めることはできなかった。彼は彼女のクズな一面に失望しながらも、それに支配されている自分を知り、 その果てしない快楽に溺れていた。
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