連れていかれた

1/1
前へ
/15ページ
次へ

連れていかれた

彼女は目を覚まし、隣で眠る彼を見つめた。 薄明かりの中、彼の顔は穏やかで静かだった。 しかし彼が目を覚まさないことに気づいたのか、 彼女はとめどない不安を感じた。 彼の肩を優しく揺さぶってみても、彼は微動だにしない。 彼女の心臓が速く打ち始めた。 「ねぇ、起きて。もう朝だよ」彼女の声は震えていたが、 彼は応答しない。彼女は彼の顔に手を伸ばし、 冷たさに驚いた。彼の肌はまるで氷のように冷たく、 心臓が沈んでいくような感覚に襲われた。 彼の胸に耳を当てたが、鼓動は感じられなかった。 突然、部屋の温度が急に下がったように感じ、 彼女は恐怖で体がこわばった。 彼女は彼を必死に揺さぶり、叫んだ。 「起きて!お願いだから!」 しかし、彼の目は閉じたまま、 まるで永遠の眠りについているかのようだった。 その時、彼女は気づいた。 彼の口元に微かな笑みが浮かんでいることに。 そして、その笑みがまるで何かを知っているかのように。不気味だ。彼は一体どんな夢を見ていたのか。 もしかしたら、その夢が彼を連れ去ってしまったのかもしれない。 彼女の背後で、何かが囁く声が聞こえた。 「彼はもう帰れないよ」 振り返っても、そこには何もなかった。 ただ、静かな朝の空気が漂うだけだった。 彼女は震えながら彼の手を握り締めたが、 その手の冷たさは一向に消えることはなかった。 彼女の視界は涙でぼやけ、 彼の穏やかな表情がぼんやりと見えるだけだった。 彼の初夢は、永遠に彼を閉じ込めたのだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加