《落ちこぼれな天使》

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《落ちこぼれな天使》

 一人の女性が恋に悩んでいた。  彼女は今の彼氏と別れて新たな彼氏を作ろうかと迷い中なのである。 「はぁ……、今の彼氏は安月給だしな~。でも、あの先輩はかっこいいし、しかもお金あるし! やっぱり乗り換えようかな。でも、どうアタックすれば……」 「――そこの悩めるお嬢さん。僕に良い考えがあるよ」 「え、誰?」  振り向いて見上げれば……顔が血だらけの大男が歪に笑って弓を取り出していた。 「いやーーーー!!!! 助けてーーーー!!!!」 「え、いや、あのっっ!!!?」  女性は一目散に逃走し、その男から離れた。トマトケチャップをぶちまけてハンカチで拭ってから、金の矢を手にした男――天使ビリーは大きな体を小さくさせて息を吐いたのだ。 「この馬鹿者!!!! 怖がらせてどうするんだっ!」  天界の世界でビリーに叱責する者が居た。青く長い髪に色白の肌に端正な顔立ちをした男は、獣のように大きく色黒な男であるビリーを怒鳴り散らす。  彼の名は恋情神(れんじょうしん)セレス。愛情や恋を司る神で天使をまとめ上げている(おさ)である。 「なんでお前はトマトケチャップなんぞを拭かずに、しかもっ! 弓まで取り出して行ったんだっ!? おかしいだろ」 「い、いや。ハンバーガーを食べていたら突然、ケチャップが飛んできたんですよ。それで拭おうとしたら悩める女性を見つけたので、これはチャンスだと思いまして……」 「普通ケチャップは飛ばないし、拭うものなのだが……。まったくお前は」 「あは。ごめんなさい」  ビリーは巨大な身体を小さくさせて謝罪をした。彼がかなり抜けていて天然な心優しい天使なのは知っているが、それでも天使としてはまだまだだ。  身体が大きく、笑顔をすれば必ず子供が号泣してしまう不器用な天使はまだ一件も恋路を応援することができていない。  だが見くびらないで欲しいのは、ビリーは弓の名手なのだ。  ビリーの弓矢一本でその人の恋路ががらりと変化する。人間相手ではビリーは失敗しているものの、神だろうが悪魔だろうが怪物だろうが、ビリーは恋する相手を手助けし道を開いていった。  しかし人間相手には上手くいかない。  人間はビリーの悪魔よりも恐ろしい形相に怯え、逃げ去ってしまう。それがビリーを傷つけることをセレスはわかっている。  セレスは息を吐き書類に目を通した。 「ビリー。お前、この人間相手の恋路が駄目だったら……神専門の天使になれ」 「え、それはどういう」 「お前は人間には好かれない、手助けできないという意味だ。手助けできないどころか、天使だと見破られて剥奪(はくだつ)されるかもしれないぞ?」 「そんな……」  天使は人間に見破られてしまうと剥奪されてしまう。だから厳しいことを伝えたのだが、ビリーは大きな翼を震わせて泣き出しそうな顔をした。  だがその姿さえ、異形だと思えてしまうのはビリーの宿命かもしれない。  一生の宿命かもしれない。
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