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《そばかすの彼女》
セレスに説教されてしまった挙句、解雇通知疑惑を出されてしまったビリーは天界から人間界の世界に戻った。
天界にはなんとなく居たくはなかったのだ。
「はぁ……。僕、神様とか悪魔さんとかより――人間の方がずっと好きなんだけどな」
天使のビリーは人間が好きなのだ。人間は過ちを犯すが複雑でユーモアがあって不思議な魅力がある。
ある先輩から聞いたことがある。恋した人間の手助けをしたのだが、その相手が逆に告白をしなくなってしまったのだ。
付き合う前に射止めようとした相手が自分と釣り合わないとなんとなく感じ、やめてしまったらしい。代わりに彼女は、自分に片思いをしていた幼馴染の男と付き合い――結婚したのだ。
「くぅ~、いいよっ! そういうのがいいんだよっ! 僕もそういうお手伝いがしたいな」
ベンチに座っているビリーは鏡を取り出して笑顔の練習をした。相変わらず怖すぎてしまう笑みだが、それでも続けた方が良いとビリーはなんとなく思っている。
ビリーの弓矢は天性の才能もあるが、努力をし続けた賜物。だから彼は練習をするのだ。
「う~ん。笑顔ってどうするのかな? こう……かなっ? いや、こんな~感じ?」
「――ふふっ! お兄さん、それだと怖いを通り越して変顔になっちゃうよ」
「え、だ、誰?」
振り返ると艶やかな黒髪をツインテールにした小柄であどけない少女が立っていた。そばかすを散らかせているが黒目が大きく、にっこりと白い歯を見せるその笑みに魅了される。
まるで太陽神のような明るい笑みだとビリーは思った。
「お兄さん、名前は? あ、英語の方が良いかな? え、えっと……キャン ユー スピーク イングリッシュ?」
「日本語で平気だよ。馬鹿にしてる?」
「してないよ~! ごめんって!」
ケタケタと笑う少女にビリーは息を吐いたかと思えばベンチの端に座る。少女がどさりと座り込んだ。
「笑うときはね、歯を見せて目元を細めた方が良いんだよ。笑顔の練習をするときに鏡であいうえおの順番で口を動かすと、もっと表情筋が滑らかになって良いよ」
「へぇ~そうなんだ。笑顔素敵だもんね、お嬢さんは」
「……来夢。櫻崎 来夢だよ。お嬢さんなんて柄じゃないし、そんな大して可愛くないし。――告白しても振られちゃうし」
来夢はさきほどの笑みとは裏腹に息を吐き出した。その大きな瞳は今にも瞳から涙が零れてしまいそうだ。
ビリーはハンカチを慌てて出した。
「ぼ、僕で良ければ相談に乗るよっ! 笑顔の演習とか教えてくれたし……。恋の悩みは僕の専門なんだ!」
「恋……かぁ。でも、私なんて上手くいかないよ」
「そんなことない! やってみないとわからないよ!」
ビリーのハンカチを受け取った来夢は素っ頓狂な顔をする。それでもビリーは立ち上がる。
「僕が君の……来夢の恋路を応援するよ! 大丈夫。任せてよ!」
「えっと、あ、ありがとう」
「うん。あ、ちなみに僕はビリー。よろしくね」
「よろしく、ビリー」
来夢の顔つきが明るくなった。それだけでビリーは嬉しさを伴わせる。
これにて、来夢の恋路大作戦が始まるのだ。
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