《黄金の矢》

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《黄金の矢》

 来夢の射止めたい相手は、行きつけのカフェのバイトである豊口(とよぐち)という大学生らしい。  猫っ毛で少しツリ目な瞳と栗毛色な髪をなびかせたけだるげイケメンだ。目元にほくろがあり、ふとした瞬間に微笑む姿アイドルを想起させる。  人々魅了させるその笑みに惚れてしまい、来夢が彼のことが好きになってしまったようだ。  カフェ『サンダーバード』にて、接客をしている豊口を見ながらビリーはキャラメルカフェラテを飲み、来夢はカフェオレとケーキを食べていた。 「はい。こちらは当店人気のイチゴケーキでして――」 「あー、カッコイイな~。豊口さんって彼女居るのかな? でも、あんなイケメンだもんね。居るの決まっているよね……」  豊口が接客をしている離れで来夢はイチゴケーキをフォークですくって食べる。ビリーは豊口の様子を見ながらストローで飲んだ。 「いや……、彼は恐らく今は彼女が居ないね。これはチャンスだよ」 「どうしてわかるの?」 「あ、いや……えっと……」  実は天使に備わっているのは弓だけでない。鋭い嗅覚で相手に彼女が居るのかどうかを見極める能力が備わっているのだ。  今の豊口には哀愁の香りした。恐らく彼女と別れてしまったのだろう。――だが比較的に軽い匂いだ。表情的にも引きずっていないと考えられる。 「な、なんとなくかな~? ほら、僕! こう見えても恋に関してはプロだからさ!」 「……ふ~ん。ビリーって不思議だね」 「よく言われるよ」  言われる前に逃げ出されてしまうけれど……などと思いつつ、ビリーは考え込んだ。どうすれば来夢の恋が成就するのか作戦を練ろうとする。 「うむ……。どうすればあの男の子とお近づきになれるか、だね」 「そうなんだよね~。なんかプレゼントとか渡そうかな?」 「プレゼント! それは良いね。来夢、ちょっと待っててくれる?」 「あ、うん。トイレ行ってらっしゃい」  トイレではないがそういうことにしておこうとしたビリーは席を外してトイレに行く振りをしたかと思えば、外に出た。  夏の暑さが堪えるがサンダーバードが見渡せる屋上へ行き、弓矢を出現させる。金色に輝く矢に祈りを込めた。これはキッカケをつくるための弓矢だ。 「豊口さんが今、欲しいものを――狙えっ!」  弓を引きパァァッンという音を立たせた。ビリーの命中率100パーセントの黄金の矢が空を裂き、窓ガラスを通らせて豊口の心臓に命中する。  豊口が洗っていた皿を落とした。天使は嗅覚も鋭いが目も見えるし耳も聞こうと思えば聞こえる。 「さぁって、どうなっているのかな?」  洗い場から出てきてスマホを弄っている来夢の元へ豊口がやって来た。端正な顔立ちをした豊口が爽やかに笑う。 「俺、豊口(とよぐち) (れん)。22歳。趣味はソシャゲの神! ”スターブレイズ”っていう音ゲーのリナちゃんを集めることなんだ!」 「す、ス、スターブレイズ?」 「そう! そのリナちゃんの水着コスのSSRが欲しいんだけど全然でなくてさ~。それが欲しいんだけど」 「……えっ?」  ビリーはソシャゲでさえも意味不明すぎてわからない。だが黄金の矢は刺さっていた。  
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