第1章「始まりの汽笛」

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 汽笛が一層強く響く。 野原の先の森から、線路は右へとカーブを描いているので、列車の姿はまだ見えない。 でも、蒸気による排煙が空にうねっていて、位置はまる分かりだ。 もうすぐそこまで来て――来た! 黒い蒸気機関車が、姿を現した。 轟々とこちらに向かってくる。やはり速い。ちょっと恐い。  乗り方は考えてある。 人のいない貨物車両を狙い、手すりを掴む。 あとは…まぁ成り行きにまかせて。 問題はあのスピード……。  いよいよすぐそこまで来た。 僕は列車の右に並ぶ形で、線路に近づいた。 僕に気づいたのか、運転手は汽笛を鳴らす。 「邪魔だ。どけ」  そう伝えたかったのだろうが、僕にはこう聞こえた。 「乗れるものなら乗ってみやがれ」  やってやろうじゃないか。 僕は軽く脚を慣らす。さらに深呼吸。 そしてとうとう列車が横に並んだ! 僕も走り出す。全然追いつけてないけど。 それにしてもショルダーバッグが揺れる。邪魔だ。リュックサックにしておくんだった。 先頭の方は乗客専用車両のようだ。出入り口や窓が多い。 5両ほど僕を抜いて行き……見えた! 窓が少なく外装も素っ気無い地味な車両……貨物車両だ! どの貨物車両も、前方の扉付近に縦に伸びた手すりがある。あれに捕まろう。 タイミングを見計らって、左手を伸ばす。 「くっ!」  ……かすった。もう一度。 「この……!」  僕は少しムキになり、大地を思い切り蹴った。 ――パシッ! ――ガクン。  しっかり掴んだ。はずだった。 僕は列車に引っ張られる形で宙に浮いた。 そして手を離した。だって痛かったんだもん。  小石の絨毯(じゅうたん)に落とされた僕は、なおも暖かい太陽を眺めていた。 「三度目の失敗……か」
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