第2章「暗がりのなか」

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 汗がすごい。疲れたというのもあるけど、大半は焦りによるものだ。 とても気楽ではいられず、焦りがミスを生む。 何度も手すりに手を伸ばすも、まったく掴めない。滑るのだ。 列車は逃げるように僕を見離そうとしていた。 「うっ……くっ……」  僕は半べそをかいていた。 でも立ち止まれない。諦めちゃ駄目だ。 僕は後方を確認した。 まずい。最後尾の車両がすぐそこまで来ている。早く乗らないと……チャンスは残り少ない! 服で手の汗を拭った。 ほぼ我武者羅に、両手を思い切り伸ばした。 「うああああッ!!!」  思えばあれが、渾身の力というものだったのだと思う。 僕は手すりを掴んだ! しっかりと! この手中に!! そして流れるように滑った。 足が地に着き、弾かれる。 僕はそのまま、列車に引きずられ始めた。
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