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会社に着けば、小酒部さんとの時間が嘘だったのかと思うほど、まさに昨日の繰り返しのような時間が待っていた。
昨日と変わらぬ午前中が過ぎ、昼休みになった。昨日と違うことと言えば、朝コンビニで昼飯を買ってくるのを忘れたことだ。
小酒部さんで頭がいっぱいだったのか。僕らしくないミスだ。
僕は仕方なく会社側の喫茶店で昼食を取ろうと、会社の外に出た。
「あれ?小田原くん?」
聞き覚えのある声に振り返ると2つ上の職場の先輩の金宮愛さんが立っていた。
「金宮先輩。」
「珍しいね、自席で食べないの?」
「今日コンビニ寄り忘れまして。」
「まさか、そこの喫茶店?」
「は、はい。初めてですけど、前からカツサンドが気になってたんで良い機会かなって。」
「じゃあ私と行こ。丁度、いつも一緒に食べてる同期が休みでどうしようか迷ってたのよ。ほら、行こ!」
「は、はい。」
僕は金宮先輩の勢いのまま一緒に喫茶店に入り、ボックス席に対面に座った。一通り注文をすると、僕は何を話したらいいか分からず、とりあえず水を飲んだ。グラスを置いてチラッと正面を向くと、頬杖をつきながらじっと僕を見ている金宮先輩と目が合った。
「フフ、なんかこうしてご飯食べるの初めてよね。」
「は、はい。」
「小田原くんはさ、昼休みもなんだかんだ仕事してるもんね。」
「僕は皆さんみたいに効率良く仕事出来ないんで、少しでも遅れを取り戻そうとしてて。」
「まぁその姿勢は素晴らしいんだけどさ、たまにはこうやって職場の人とコミュニケーション取るのも大事だよ。」
「コミュニケーションですか…。」
「そ。仕事は1人でするものじゃなくて、職場のチームでやってかないと。それが仕事を楽しくするコツかなぁ。」
金宮先輩は僕のことを察しているようにニヤッと笑った。
「小田原くん、いっつも眉間にシワ寄せてるからさ。毎日楽しくないでしょ?」
「…でも僕はまだ入社して半年ですし、楽しさとかそういうのは…。」
「最初が肝心!人間だって第一印象が重要でしょ?同じよ同じ。まぁ簡単に言えば、そんなに難しく考えて1人で抱え込まないってこと!たった2年の先輩だけど、2年分のアドバイスってことで!」
ニコッと微笑みながら言う金宮先輩は、職場とは印象が違ってちょっとドキッとした。職場では、まだ3年目とは思えないほどの機敏な働きぶりで係長を支えていて、僕の目標とする1人だ。
金宮先輩ってこんなに話しやすい人だったのか。僕は新たな金宮先輩の魅力を見つけて嬉しく思った。
「お待たせしました、カツサンドのお客様。」
「あ、はい。」
「一個もーらい!」
店員が僕の前に置いた途端、金宮先輩は1つ取ると口に頬張った。
「美味っ!」
僕は金宮先輩の顔を見て思わず笑ってしまった。
「そういう感じ、職場でもそれでいいと思うよ。」
金宮先輩って良い人だな、僕は改めて思った。
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