いつか…

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小山係長は日本酒をクイッとお猪口で飲むと、「くー!」と美味しそうな顔をした。 「はい、こちら今日のおばんざい。煮物からね。」 ママから小皿を受け取るとホクホクのかぼちゃの煮物が入っていた。 「ここの料理はどれも美味いぞ。おばんざいってのは京都で惣菜って意味で使われてるんだ。家庭的な料理で親しみやすいだろ。」 「美味しそうです。いただきます。」 かぼちゃに箸を入れるとスッと半分に切れる柔らかさで口に入れると味が中までしっかり染みていてとても美味しかった。 毎日コンビニ弁当ばかりの僕にとって、家庭的な手作り惣菜は本当に久しぶりで、美味しいだけじゃなく嬉しくもあった。 「美味しいです、本当に。」 「いい顔するじゃないか。」 小山係長は微笑みながら日本酒を飲んだ。 「さっきママも言ってたけどな、俺は小田原を見て昔の自分を見ているようでな、心配してんだよ。俺は1年目に身体壊して少し休む時期もあったからよ。」 「…そのことなんですけど、係長ほど仕事出来る人は僕なんかとは違いますよ。」 「俺はそんなに仕事出来るタイプじゃないよ。小田原や金宮、安達(あだち)たち部下に恵まれてるから俺は係長をやれてるんだ。あんまり謙遜ばかりするなよ。1人で抱え込むのが1番良くないからな。」 「それ、昼に金宮先輩にも同じこと言われました。」 「ハハハ、それは俺の言葉の二番煎じだな。俺が金宮にも言った言葉だからよ。」 「そうなんですか?自分の言葉のように言ってましたけど。」 「金宮らしいよな、あいつ。明日指摘してやろうかな。」 「やめてくださいよ。僕が言ったのすぐにバレるじゃないですか。」 僕は自然に笑いながら会話をしていた。 …あれ、なんか楽しいって思えてる? 絶対来ることがないなって思っていた店は入ったらとても親しみやすい店で、仕事が出来る頭のキレる印象の係長は過去は僕みたいな感じだったなんて。今日、係長と飲みが無かったら知る由もなかったな。 「今日お前を誘って良かったよ。昼に金宮と飯から帰って来る姿を見てな、俺も誘ってみようかなって思ったんだ。」 「誘っていただいて良かったです。」 「小山さん、このお兄さんのお名前は?」 「俺の部下の小田原くんだ。あの小田原城の小田原だぞ。珍しい名字だろ?」 「小田原さん、本当に珍しいわね。一度聞いたら忘れないわね。小田原さんはお一人暮らし?」 「は、はい、そうです。」 「ご飯はちゃんと食べてるの?」 「ちゃんとと言われると自信ないです。ほぼコンビニなんで。」 僕は苦笑いしながら答えた。 「コンビニ弁当が悪いわけじゃないけど、毎日それは良くないわね。たまにはウチに食べに来てください。お代は小山さんに付けときますから。」 「ちょっとママ、毎日来ちゃうからそれ!」 「じゃあ毎日来ます。」 「フフ、小田原さんも面白いわね。今日はゆっくり食べていきなさいね。」 ママはそう言って野菜の炒め物を出してくれた。 「今日は楽しく話して食べて、また明日から頑張ろうな!ママ、日本酒おかわり!」 楽しいと思える夜はもう少し続きそうだ。
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