第九話 人を呪わば穴二つ

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「おかえり呂色。今までどこにいたの?」  七星が呂色の顎をくすぐるように撫でると、嬉しそうに目を細める。  急に飛び込んできた呂色を一瞬警戒した墨怜だったが、問題ないと判断したのか、すぐに「おやすみなさいませ」と丁寧にお辞儀して部屋を出ていった。 「今日は色んなことがあり過ぎたね」  呂色を畳の上に降ろし、七星はふわぁと欠伸する。  布団に吸い寄せられるように倒れると、すぐに白虎が七星の隣にやってきた。寄り添うフカフカの毛並みは柔らかくて温かくて、ホッとする。 「強い上にもふもふまで堪能できるなんて、こんなに優秀なボディガードは他にいないよ」  いっそ布団は要らないんじゃないかと思いながら、七星は遠慮なく白虎にしがみつく。  それを見た呂色はヤキモチでも妬いたのか、白虎を踏みつけながら七星の側にやってきた。七星と白虎の間に割り込むように、ぐいぐいと自分の体をねじ込んでくる。 「ごめんごめん。呂色も頼りにしてるよ」  拗ねてしまった呂色の機嫌を取りながら、月也の言葉を思い出す。 「呪詛返しが強力だったって、どういうことだろうね? まぁ、気にするなって言ってたから、月也さまの思い過ごしなのかもしれないけど」  しかしあれはまるで、呂色が呪詛を跳ね返すために何か手を加えたような口ぶりだった。 「まさか呂色、何かした?」  そう尋ねても、呂色は「ナー」と鳴いて、くりくりの無垢な瞳で七星を見上げるだけだった。その愛らしい姿に七星はハートを撃ち抜かれ、たまらず頬を寄せる。 「そうだよね、呂色が何か出来るわけがないよね。こんなに可愛い猫ちゃんだもんね」  ぎゅっと抱きしめると、呂色の喉がより一層グルグル鳴った。  緊張が続いてクタクタに疲れきった脳と身体に、癒しの権化のような二匹の心地よい体温が沁みる。  七星が夢の世界に堕ちるのに、そう時間はかからなかった。 ◇ 『ちょっと。あなたどこまで図々しいの⁉ 起きなさいよ』  深い眠りについたはずなのに、どこかから自分を呼ぶ声がする。 『ねぇ、早く起きてってば! 私を無視しないでッ!!』  子ども特有の甲高い叫び声が、まるで洞窟の中のように反響した。  何事かと驚いた七星は、弾かれたようにガバッと飛び起きる。 「えっ? 何⁉」  目を開けるとそこは真っ白な空間で、目の前には腰に手を当て頬を膨らませる、鷹司七星が居た。
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