《仄めかす》

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《仄めかす》

 立食パーティーの終わりの時間まであと30分も切ろうとしていた。  ここまで、食事をしソフトドリンクを飲んでラウンジでくつろでいる。腹も膨れたし、酒は飲めないし、眠いなと思いながらソファに横たわっていた。 「たくま、た~くまっ!」 「う、んぅ……、あ、玲央か。どうだ、女の子にモテているのはさ」  眠たい目を擦り皮肉を告げたが玲央はなんとも思っていないようだ。昔からモテてるのだから当たり前かとも思う。  生欠伸をして両腕を天井に向けた。 「そういえば修作は?」 「修作さんならもう帰ったよ。多分、あの彼女と一夜を共にするんじゃないかな」 「げぇっ、あいつめ! もう怒った。今回の小説は読まないぞ」 「まぁまぁ」  ケラケラと笑っている玲央ではあるが、拓真はふと彼の指先が気になった。親指の絆創膏が貼られているが、もうよれてしまっていて粘着力がない。 「……親指どうした。指でもさかむけた?」  拓真は常備している緊急救急セットを取り出して絆創膏を取り外し、自身の絆創膏を親指に巻き付けた。  この絆創膏は価格が高いが保護力があり、撥水加工があるので重宝している。  処置に1分もかからなかったが、玲央がなにも言わずにじっと見つめているので視線が合った。熱を帯びているのは気のせいか。 「あ、うん。さかむけたからさ、その……自分で貼ったんだ」  嘘だなと拓真は思う。玲央はしょっちゅう怪我をするくせに自分で怪我を治さない。気合いで治そうとする癖がある。  恐らくは指がさかむけたのを女性たちが見て指に触れて治療をしてあげたのだろう。  どうしてだが腹立たしい。玲央がモテたことではない。――玲央の治療をするのは自分だと思ってしまうのだ。 「……はぁ。俺って、ブラコンなのかもな」 「え、なに急に」 「いや。玲央の指に触れて良いのは俺だけだって思っちゃってさ。あは、ごめんな。キモいこと言ってさ」  自分でもなにを言い出すのかと思ったが素直に思ったことを告げれば玲央は含み笑いを浮かべた。そして耳元にそっと近づく。 「それって、――俺は拓真だけ触れちゃ駄目ってことだよね」 「え、いや。そういうわけじゃない……とは、思うけど――」 「そういうことにして。そっちの方が俺、……嬉しい」  耳元からゆっくりと身体を密着させられて拓真は驚いてしまう。玲央は酒が強いかどうかは知らない。だが酒の匂いを感じないのだからそこまでは飲んでいないはずだ。じゃあ、――なぜ。 「ねぇ、拓真。俺ね、拓真のこと……」  なにかを言いかけて玲央は拓真の身体を離した。心臓がバクバクしている。きっとリンゴのような頬にもなっているだろう。それぐらい身体が熱いのは――なぜ。 「帰ろっか。まぁ俺も誘い断ったしさ、それで良いでしょ?」 「え、あ、まぁ良いの……か?」 「ほらほら、帰ろうよ。拓真」  急かされて外を出た拓真は街灯を見ながら玲央と帰る。玲央がなにを言いたかったのかはわからぬが、今回わかったこと。  それは街コンでの収穫はゼロ。彼女が出来なかったという事実であった。
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