《天使》

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《天使》

 玲央の鋭いが甘えたような瞳と、杏奈と呼ばれた女性の殺気を覚えたような視線に挟まれた結果、拓真は玲央の肩を引っ張ってなかへと促した。すると杏奈は舌打ちをして場内から出て行ってしまう。拓真は安堵した。 「おい、今の子がお前の付き合っている彼女か? ずいぶん可愛いけど、……怖ぇよ」 「だから別れたいんだけどなかなか別れてくれなくてさ。俺が殺されかけたら助けてよね」 「その前に警察に行って相談に行って来いよ……」  脱衣室にある椅子に座らせて怪我の様子を診る。そこまでひどくはないが擦り傷だったり打撲があったりしていた。玲央が足でも挫いたらと思うと痛みで顔が歪みそうだ。 「ちょっと待って。怪我しているから、すぐに手当てするよ」  身体に触れていき打撲が出来ているところに湿布と固定するテープや包帯を巻いた。擦り傷には消毒してから絆創膏やガーゼを貼付した。  玲央は昔から傷が絶えなくてよく怪我の手当てをしていた。どうして玲央が怪我をするのか小さな頃の記憶だからかあまり覚えていない。 「玲央ってさ、昔から怪我とかよくしていたよな。その頃からラグビーやっていたっけ?」  玲央の視線が合わさる。玲央は少し困ったような顔をした。 「ううん。サッカーやっていたんだよ。覚えていない?」 「あっ、サッカーか! そういえばその頃から傷が絶えなかったよな~。でも、才能があるって言われいなかった、け?」  思い出した。そういえば兄弟共にサッカーをやらされていたのだが拓真は運動音痴のせいですぐに辞めてしまっていた。だが、運動神経抜群に育った玲央は続けていたはずだが――いつの間にか辞めてしまっていたのだ。  それからはどうしてだが危険なラグビーをやっていて今でも継続している。大学も強い方だが手を伸ばせばもっと強いラグビー部に入部できたのではないかと両親から聞かされている。 「なんでサッカー辞めたんだよ? いじめられていなかっただろ?」 「いじめられてはいなかったけどさ、その、まぁ……守れる強さが欲しかったんだ」 「守れる……強さ?」  どういうことだと首を横に傾けようとした瞬間――玲央に抱き締められる。汗臭さが際立つが男らしさというか、フェロモンを感じさせる男の色香(いろか)を感じさせた。 「な、なに」 「メンバーに言われていたんだ。拓真と俺は似ていないって。顔も性格も……なにもかも似ていないって。それを言われたとき、悔しかったけど――可能性を感じたんだ」  耳元を(まさぐ)られるようなくすぐったさと顔が熱くなっていく感覚に溺れる。 「俺がもっと魅力的な男になって、傷だらけでも優しくしてくれる天使が傍に居て俺から離れないようにするにはどうしたらいいのかな、って」 「天使……?」 「そう。女神だと女性になっちゃうから――ね」  視線が合わさった瞬間、天使は誰のことだろうとふと考え、嫉妬してしまった。だが優しげな玲央の瞳が嬉しくて拓真は天使のことなどどうでも良くなってしまう。  ……合コンが始まるまであともう少し。
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