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《情けない》
試合が終わった後に玲央をシャワーに浴びさせて再度処置をした。続いて自分もシャワーを浴びてからこの前着た街コンと同じスーツに着替える。
白のチノパンに青いシャツを着た玲央が「またそれ?」なんて笑い出す。なにがおかしいのかわからない。
「なんだよ、またそれって。別に良いだろ」
「だって合コンでしょ? そんな気合入れなくてもね」
「お前はかっこいいけれど俺は凡人だから駄目なんです~」
舌を出して人差し指を目の下に向けて出す行為に玲央は呆気に取られたかと思えば優しげな顔をした。
「それってさ、――俺は拓真の好みってことだよね?」
「え……」
違うと言いたいが言葉が出なかった。だが軽やかに笑った玲央が手に触れて繋いできたかと思えば「早く行こう」などと誘う。
このときめく気持ちはなんだろうかと知りたいばかりであった。
電車で一時間はかかった道のりで到着したのが19時手前であった。奥山に遅れることを連絡したところ、もう始まっているとのことだ。
拓真は幸先の悪さに自分の不運を呪う。
「ふ~ん。もう始まってるんだ。でもいいんじゃない? 遅れてきた方がかえって目立つよ」
「……悪い意味でな」
駅を降りて指定された料亭に向かい店員に声を掛けた。話には聞いていたが高級感のある料亭だな、なんて過る。
奥山の名前を出すと店員はにこっと微笑んで「突き当りを奥に行ってください」手を差し向けて行ってしまった。
「案内してくれても良いのに……」
「まぁそういうところなんだろうね。行こう、――拓真」
腕を掴まれて先行されて連れて行かされる拓真は少し不機嫌だがどこか楽しそうな玲央の表情にふと笑う。
玲央は昔からクールだが一人で考え込んだり行動したりする子だったが、お兄ちゃん想いなところは変わらない。
今日も自分が情けない姿を晒すだろうから来てくれたのだろう、そう思うと兄としてどうなのだろうと思う。
弟の玲央は合コンではどんな風に対応しているのだろうかと考える。そういうことに思いを馳せるとかなり女の子たちに羨ましさを感じるのはどうしてか。
「あ、ここだ。じゃあ拓真、声掛けて」
「う、うんっ。……失礼しま~す。奥山さん、遅れてすみません……」
和室の引き戸を開けば数名の女性がこちらを見た。彼女たちが見ているのは恐らく玲央だ。玲央の端正で甘い顔と鋭い瞳にノックアウトなのだろう。
しかも体格も良いので筋肉質で張りのある身体は心をも魅了させるはずだ。
「奥山さん、――その子だれっ!?」
「誰ですか~? かっこいい!!!!」
「素敵っ。僕、どこで働いているの?」
女性たちが玲央に駆け込むように拓真たちに向かう。一方の奥山や男性看護師軍団は玲央を連れてきた拓真に軽蔑の視線を向けていた。
拓真はここでも玲央によってのけ者にされてしまったのであった。悲しいが玲央は悪くない。天性の美貌を持った彼を責めてもなにも出ないことを拓真は知っている。
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