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《童貞》
玲央は汗まみれになったTシャツを着ているのだが、それが幾分男らしさを纏わせており心臓が跳ねそうになる。香りも雄雄しささえある。
どうして自分が弟なんぞに気に掛かるのかわからない。きっとあの夢のせいだと拓真は恥じらいを覚えた。
「夜勤おつかれ。風呂入ってさっぱりした?」
「あ、う、うん! さっぱりしたよ、うん!」
「……拓真さ、な~んか俺に隠してない?」
昔はお兄ちゃん呼びだったがいつのまにか名前で呼んでくる。しかもどうしてだが勘も拓真よりかなり鋭い。
「そ、そんなわけないだろっ。もう~、風呂入っていたのに入ってくんなよ」
「別に良いじゃん、兄弟なんだし~?」
「お前のそういうところムカつく」
舌を出してあっかんべーをした拓真はいそいそと着替えていく。その姿を玲央がじっと見つめてくる。
無言の時間。だが、話してしまうと自分が夢で実の弟とやらかしそうになってしまった……なんて口が裂けても言えない。
さすがに冗談でも実の弟には言えなかった。
「……拓真さ、少し痩せた? なんか、腰辺りが細くなった」
「えっ、そう?」
「ほら、俺と比べたらさ――」
玲央が拓真の腰に触れる。張りのある良い弾力をした男らしい手に心臓が、鼓動がつんざく。
このままでは勃起して実の弟から軽蔑の目が垣間見えるだろう。――拓真は逃げるように玲央から離れた。
玲央が意味不明な顔をしている。
「へ、変態っ! 触ってくんな、馬鹿!」
そのまま寝巻に着替えた拓真はそのまま出て行こうとするのだが……玲央に「ちょっといい?」などと呼び止められてしまう。
なんだろうかと思い振り向けばふわりと香る汗と柔軟剤の香り。
「ちゃんと休んでね。お願いだからさ」
「……う、うん」
ぽかんとした顔で玲央を見つめれば、彼はTシャツを脱ぎだした。――身体には赤い斑点、いわゆるキスマークがついており殺気を覚えたのだ。
一人部屋に籠った拓真はネットのセクシービデオを漁りながら不満をぶつけている。
「なんだよ、玲央の奴! あれは自慢だな、自慢! 俺は彼女が居たことないのにさ」
一人ぶつぶつと呟きながらセクシービデオを見ていくのだが、拓真は意外と色んな種類のセクシービデオを観る。
シチュエーションAVも観るがマッサージなどの色物やGLやらBLやら多種多様なものを見ているのだ。一種の興味本位である。
この前はローターを使ったBLセクシービデオを観てしまったので「前立腺って気持ちいいのかな?」興味を持ち通販で購入してしまった。届くのが楽しみだ。
「はっ! こんな情けなくビデオを観ているから、俺は一生童貞なんじゃないか!?」
拓真は己の愚かさに気づいてしまった。そうなのだ。職場で出会いがないというならば作るしかないのだ。
拓真はサイトではなく幼馴染に連絡をする。幼馴染も今は彼女が居ないと言っていた気がする。
「もしもし、あのさ!」
拓真の童貞卒業計画が始まるのだ。
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