57人が本棚に入れています
本棚に追加
《視線》
日程を決めてから激励会の日が来た。修作の家で待ち合わせをして、それから個室がある酒屋で飲もうという話になっている。
そこは鮮魚が有名でしかも焼き鳥も美味しいところだ。拓真は特別な日にしか行かないうってつけのところである。
ちなみに玲央は初めてらしい。
「へぇ~、そんなところがあったんだ。誰かと行ったの?」
「普通に修作とだよ。あいつ視線恐怖症だからそういうところがいいんだってさ」
「そうなんだ。……良かったよ、彼女とかと行ってなくて」
一瞬だけ玲央の束縛するような視線が伺えたが、すぐに笑みを零した。そんな弟の様子に兄の拓真は気づかないフリをする。
玲央は多くの女性と付き合いセックスまでしているのだ。これほど憎たらしいことはない。尊敬の念も持ち合わせているが。
そんな玲央はなんだが今日は大荷物であった。少し大きめのショルダーバッグを持っていて「なにが入ってんの?」尋ねれば「色々とね」そうはぐらかしていた。
なんだがわからないがとりあえずは今日を楽しもうと拓真は胸を馳せて思うのであった。
修作の家で待ち合わせをして三人で居酒屋へと向かう。先導で拓真が歩き、その後ろを修作と玲央がついて行く。
「佳作だなんですごいじゃないですか。デビューできなかったのは残念ですけど」
「本当にな。はぁ~、まぁ佳作でも賞金は貰えたから良かったけどな」
「へぇ。賞金っていくらぐらいですか?」
すると修作は指をパーにして「五万円」そう言った。言わずにいられなかった拓真は「じゃあ修作大先生の奢りということで」などと笑う。
「マジかよ! 五万なんてすぐになくなるじゃん」
「まぁまぁ、そこをなんとかだよ修作大先生。食べ盛りの愛しい弟も居るしさ~」
「あ、俺。修作さんが稼いだお金で食べたことないな」
「……わかったよっっ! 奢ればいいんだろう!」
拓真と玲央が二人して笑いハイタッチをする。――するとどこかで視線を感じた。殺気に似たような感覚であった。
「え、なんだろう……?」
振り向いた先には誰も居なかった。修作が首を傾げている。
「どうした、拓真。着いたんだろう?」
「あ、う、うん! 着いたよ」
慌てて店の方に行けば視線が拓真の方に向いていた。
最初のコメントを投稿しよう!