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《片思い》
視線は感じたが誰も居なかったので拓真は店員に声を掛けて「三名で予約した芦名です」そう告げれば店員は確認を取ってから「芦名様三名、入ります~」案内してくれた。
和風モダンのテーブル席にタッチパネル式のメニューがそこにあった。メニュー表もある。店員がつぎだしと飲み物を聞いてきた。
修作と玲央はハイボールを、拓真は敢えてカシオレにした。今日はなんとなく飲みたい気分であったのだ。
つぎだしでは玉こんにゃくの煮込みにサザエのワサビ和えに冷ややっこが小さなプレートでまとめられている。
玲央が少し心配した顔になる。
「平気なの? 飲めないくせにお酒飲んで」
「いいんだよ、別に。今日は修作先生の奢りだし~?」
「……ゲロ吐くなよ」
「吐かないようにするもんっだ!」
すると飲み物が来た。ハイボールにはレモンが添えられており、カシオレにはマドラーが立てられている。三人は宙でカチンッと音を鳴らした。
「とりあえず佳作おめでとう~、修作!」
「おめでとうございます、修作さん」
「本当はデビューしたかったけど、頑張ったよ……俺っ!」
月並みの感想を述べながら飲んでいく三人ではあるが、拓真は久しぶりの酒でくらりとしてしまったようだ。カシオレは甘いが下に行くにつれて濃度が高い。よく混ぜながらちびちび飲むのが良い例である。
だがこの男、甘いお酒を甘く見ておりつぎたしを食べながらガンガン飲んでいた。
「あ~、やば。もう、酔っぱらったかも~」
「早いなお前は……。おい、玲央。介抱してやれ」
「はい。――大丈夫、拓真? これからはソフトドリンクにしておこうね」
「うひぃ~、そうする~」
眠たげな目を擦りながらメニューを注文していく三人。ミニ海鮮丼や刺身の五種盛りや焼き鳥、あとはじゃがバターや明太子ピザを頼んだ。ソフトドリンクも忘れずに付けておいた。
料理が運ばれるまでの数十分。玲央は真っ先にこんな話を切り出した。
「えっと……、今の彼女と別れられました」
「え、マジか!」
「マジ……で?」
修作がサザエのワサビ和えを食しているなかで運ばれた刺身の五種盛りとミニ海鮮丼とじゃがバターがお出ましする。
海鮮丼はふらつきながら拓真は三人で分けて入れた。玲央が礼を告げて話しを続ける。
「そうなんです。やっと別れられたというかなんというか……もう必死でしたよ」
「でも可愛かったんだろ、その子。どうして急に?」
「――愛しい人ができたから、です」
キザな言い回しに修作のハイボールが揺れる。だが飲み干してソフトドリンクを持ってきてくれた店員にハイボールを二つ頼んでおいた。
玲央のグラスも空になっていた。
「愛しい人……ね。一方的な片思いじゃないよな?」
「どうでしょう。もしかしたら、……そうかもしれませんね」
玲央の視線に気が付いた拓真はそっぽを向いてジンジャーエールを飲んでいた。
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