57人が本棚に入れています
本棚に追加
《策士》
「そんで、その愛しい人とはどうなんだよ?」
「付き合ってはいます。でも、俺から惚れちゃったし、その人が好きだという確証はありません。ただ俺に流されてるっていう感じで……」
海鮮丼を食べながら玲央の視線は少し拓真に向けられた。拓真は内心どころか公開処刑されている気持ちになる。
これでは自分が流されるまま玲央に抱かれているということではないか。そしてその策士は幼馴染みに話して自分へ好意を示させようとしている。
彼女と別れた話もしたかっただろうがこの話が一番したかったのだろう。被害者であるというのは相手に対して優位に伴わせる。
「まぁでも、お前に惚れられているのなら相手も幸せなんじゃないか?」
「……そうですかね」
「そうさ、――なぁ拓真、って顔、あかっ! どうした!?」
見事な策士に嵌った修作はさておき、この状況をなんとかせねばと考えた恥ずかしがり屋の拓真はタッチパネルで操作をした。
ソフトドリンクではなくアルコールを注文する。――店員が明太子ピザと焼き鳥を持ってお出ましだ。
「お待たせしました~。鶏レバーのタレにねぎまの塩にハツ、明太子ピザと……カルーアミルクです」
「え、カルーアミルク? 誰頼んだ?」
「は~い、俺です~!」
「お前か……」
店員に礼を告げカルーアミルクをちびりと飲む。この苦みのなかに甘さがある濃厚な味わいがとてつもないほど美味しい。
ぷはぁと息を呑んで口端を拭ってから「こいつに漬け込むなよ~、修作!」玲央の肩を抱いてにへらと笑った。
「こいつはこうやって同情を引こうとしているんだよ。どうせ、その相手だって玲央のことをその……考えてる思うのにさ」
「へぇ~。考えてると思うんだ、拓真くんは」
「考えてるさ。はいはい、この話はおしまい! 俺、海鮮丼食べて明太子ピザ食べよーっと!」
薄ら笑みを浮かべている玲央など気にせずに拓真たちは飲んで食べていた。
ちなみに今回の合計金額は2万円ほどで済んだらしい。
最初のコメントを投稿しよう!