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《行こうとしたが》
「なんだよ、拓真。俺、小説の締め切りで忙しいんだけど?」
「修作聞いてくれよ、俺の話をさ! 小説読むからさ!」
「……まぁ読者が多い方が自分の為になるからな、うむ。話を聞くか」
幼馴染で現在、実家に住んでいる鷹野 修作は息を吐き出しつつも拓真の話に耳を傾けた。
修作も社会人なのだが密かに小説家になりたいという夢を追っており、公募に向けて執筆をしているのだ。
だがなかなか身を結ばずに三年が経とうとしているのだが、拓真が読んで指摘をしたところ、その作品が佳作を取ったのである。
拓真にしてはエロとギャグの作品だったので読みやすかったが、もっと主人公たちにスポットを当てて、関係性を持たせた方が良いのではないかと伝えたのだ。
それ以来、修作は新作を出すたびに拓真に読ませている。
「聞いてくれよ~。最近欲求不満なのか、その……エッチな夢を見るんだよ」
「お、サキュバスか。ふ~ん、小説のネタに使えそうだな」
「使うなアホっ! それでその……、今サイトで探しているんだけど、――街コン行ってみない?」
「は?」
修作が変な声を出したのだが構わずに拓真はデスクに置いてあるノートパソコンを開き、スマホをスピーカーにした。
パソコンには『都心で恋人を作ろう!』という謳い文句のサイトが載っている。
「だからさ、俺がエッチな夢を見る理由は恋人が居ないからなんだよ。エロいサイトで動画を漁るんじゃなくて、もうこの歳だから作らないといけないじゃん?」
「まぁ、恋人は作って損はないな。……手作りの料理とかうまいしな」
「あ、俺に向かって自慢した! だから修作はさ――」
パソコンでお台場やら六本木やら都心すぎる場所に唸り声を上げながら見ていると、ガチャリと音が。――風呂上がりの玲央が神妙な顔をしていた。
「あ、玲央。風呂上がりお疲れさん」
「おー玲央か! 久しぶりだな。学校頑張っているか?」
修作は玲央とも仲が良く顔馴染みである。今はスマホ越しだが会って話しても敬語を使っていても三人仲良く団らんで話せるほどだ。
だが玲央はパソコンに映っている街コンイベントを見てあからさまに顔をしかめた。
「え、街コン行くの? やめなよ」
「な、なんでだよ!?」
「街コンって男が格段に高いんだよ。しかも会って間もない男女がすぐに付き合えるわけないじゃん。連絡先交換したらやっぱり合わないな~ってなって自然消滅するのがオチだよ」
すらすらと弁論を述べていく玲央にぐぅの音が出ない拓真と「確かにそうか」納得している修作の声が響く。
拓真は絶望した。職場に女性は居るが先輩の男性職員とばかり話しているから接点が仕事しかない。というか精神科の看護師はほとんど男しか居ない。
「ど、どうすれば……?」
玲央が太い息を吐いた。
「ていうかなんで街コン行こうとしたの? なんか訳アリ?」
「おーよく聞いてくれた玲央。こいつさ、欲求不満で夢でエロい夢見たらしくて」
「エロい……夢?」
玲央の顔がさらに厳しさを増した。
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