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《治療》
夕飯を食べ終えた拓真は健康優良児のように夜の22時にベッドに寝転んだ。夜勤をしたりしていると体内時計が狂うらしいが、拓真はそう言った点では頑丈である。
だが弟の玲央に悪いことをしてしまったなと深く反省し床に入って眠った。
フラッシュバックされるのは情けない自分が弟として好きな玲央を誘わせてしまって――困らせた顔。でも彼女をつくると言ったら寂しそうな顔をしていた。憤慨の顔をしていたともいうべきであろう。
玲央は結局、なにに怒っていたのだろうかと朝の6時に目を覚ました拓真はキッチンで麦茶を飲んでふと思った。
今日はエッチな夢は見なかった。安堵したのも束の間で、風呂場を通って部屋に戻ろうとすると、ドアが開く音がした。
朝シャワーを浴びていた玲央だ。ほのかに香るミントのシャンプーは爽快感を印象付ける。
「あれ、なんでシャワー浴びてんの?」
「……5時に起きて走ってきたんだ。体力づくりのためにね」
「へぇ~。お前って本当にラグビー好きだよね」
「そうかな?」
キッチンに戻ってグラスに氷入れて麦茶を注いで渡した。玲央が一瞬だけ驚いたような表情を見せる。
「びっくりした……。拓真って案外気が利くところあるんだね」
「嫌み言うなら飲むぞ?」
「いやいや、飲ませてよ。冗談だから」
絶対冗談じゃないだろうなどと思いつつも玲央にグラスを渡し水分補給させた。喉を鳴らし、喉仏が上下に揺れるさまに男らしさを感じさせる。
自分の貧相な身体とは相反する顔と体つきに最近になってコンプレックスを抱いている。
「なに、じっと見て。――見惚れてたの?」
「ばっっ、違うしっ! もう!」
顔を背いて部屋に戻ろうかと思ったとき、ふと玲央の筋肉質な足元を見た。膝小僧が擦り剝けていてシャワーで洗ったとは思うが赤々としている。
拓真は顔をしかめた。
「またお前は怪我をして……。ほら、俺の部屋に来い。治療するから」
「え、また良いの?」
「いいに決まっているだろう。まったくお前は昔っから怪我ばっかりするんだから」
玲央を自室に連行しベッドに座らせてガーゼとテープと消毒液にティッシュを取り出した。はさみも持ち込む。
消毒液を吹きかけてティッシュで抑え、拭き取る。それからはさみでガーゼを裁断し、怪我に当ててテープで固定させる。
玲央が一言も発さずにじっと拓真の手当てを見つめる。だが拓真は気が付かない。
「よし、これでいいや。はい、治療完了……って、なに黙ってるんだよ」
玲央がすくっと立ち上がったかと思えば拓真の頭をくしゃりと撫でた。黒髪でくせ毛な髪は柔らかい。
だが拓真は触れられている意味がわからない様子だ。
「どうした、急に? もしかして甘えてる……な~んて、ないよな」
軽く笑いながら玲央の顔でも拝んでおこうとすれば――愛しく見つめるような視線を向けていた。その視線に脈打つ。
「いつもありがとう。また怪我したら治してね」
「あ……う、うん」
顔が熱いのが隠せないでいた。
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