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《内緒》
夜勤明けで万全ではないが、立食パーティーという名の街コンに拓真は心を跳ねさせる。玲央も休日ではあるが、ラグビー部を終えてシャワーを浴びていた。
相変わらずミントの香るシャンプーは心地が良い。しかも今日は少し柑橘系の香りもする。恐らく香水でも付けているのだろう。
だがグレーのスーツを着て気合の入っている拓真とは対照的にストライプのシャツに白のチノパンを履いている軽装の玲央に首を傾けた。
「へぇ~、お前はスーツ着ないんだ」
「俺は興味ないしね。でもこれを機につくろうかな」
「彼女と別れたのか?」
玲央が面倒な顔をしてから「……別れてくれない」なんて言い出す。拓真は肩を揺らした。
「あはっ、そりゃあ簡単には別れないでしょ! ざまぁだっ」
「なにその言い方~。……童貞のくせに」
「あっ、馬鹿にした! このフラフラ男め!」
「はいはい」
玄関まで行き二人で一緒に出掛ける支度をした。母親には友達と遊んでくると伝えておいたが久しぶりに早く帰宅した父親とイチャイチャしていたのか興味がなさそうだ。
玄関を出て歩き出し修作との待ち合わせに向かう。修作は書店に寄ってから待ち合わせの場所に来るようだ。
空を見上げ息を吸い込む。緑がちらつく夜の街を歩いていく。
「母さんって本当に父さんにべた惚れだよな。まぁ、父さんも優しいし、かっこいいもんな」
玲央の鋭い瞳に均整の取れた精悍な顔立ちを見て息を吐いた。自分の父親のことは覚えていないが、もっとかっこいい顔にして欲しかった。
「拓真は可愛い顔しているよね。目も大きいし、華奢だし、色白だし」
「男はガタイが良い方が良いだろ。良いよな~玲央はさ」
努力の賜物だとは知りつつもやはりイケメンには生まれたかったな、そう思いながらも顔をなんとなく見つめた。
すると見つめ返したきたので恥ずかしくなった目を逸らそうとしたとき――不意に玲央が止まる。「どうした?」尋ねれば玲央の顔が急に近づいた。
驚いて離れようとするが背中に手を回された。目をぎゅっと瞑り立ちすくんでしまうと、ネクタイに手を掛けられる。
「ほら、ネクタイ曲がってんじゃん。駄目でしょ」
「あ、ご、ごめんっ!」
「直してあげるから、――じっとして」
なすがままになってネクタイを直してもらっているとふとこんなことを思い出す。
セクシービデオでBLをたまに見ることがあるのだが、ネクタイを使って拘束して身体全体を触ったり、ネクタイを外して恥部を縛り上げたりするシーンを見たのだ。
しかもそのシーンの前に「タイが曲がっているぞ」の口説き文句。男優の名前は多すぎてよく覚えていない。
「タイが曲がっているぞ、か」
「タイ? なに急に国名言ってんの」
くすくすと笑われてネクタイを直してもらった拓真は「なんでもないっ!」慌てて訂正し礼をした。
童貞の兄がまさかBLも見る変態だというのも内緒にしておきたかった。
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