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アイドルとの会話
それに気付いたのか聖修は俺のことを見ていた。
「あ、だからだね……昨日、神楽さんに言ったと思うんだけど……私は有名人だから、他の人に私がここに住んでいる存在を知られたくないんだよね。 そしたら、このマンション中が大騒ぎになるでしょう？ だから、まだ、神楽さん以外に私がここに住んでいることは言わないようにそているんだよね。 たまたま、神楽さんとは昨日会ってしまったから、神楽さんには挨拶には来たんだけど……」
……あ！ そういうことか！
聖修がそう言ってくれて、やっと俺にも理解出来た所だ。
確かに聖修の言う通り、昨日、俺はたまたま聖修と会うことが出来たから、こうやって聖修は挨拶に来てくれたり、こうやって料理を持って来てくれたりしていた事に今更ながらに気付く。
「……って、もしかして、聖修さんは俺のこと信用してくれたりしてますか？」
「あ、まぁ……ファンだって言うなら尚更ね。 きっと、隣りに好きな有名人が引っ越して来たなら、誰かに言いたいけど、誰にも言いたくはないって思うだろうし。 せっかく、隣りに引っ越して来て、それをここの住人の誰かに話をしたら、もしかしたら、引っ越してしまうかもって思うだろうから……」
「はぁ……」
とは答えたものの全くその通りだ。
確かに誰かに話したいけど、引っ越してしまうというリスクがあるなら我慢は出来る。
何だか自分のことが分かって貰えて安心したように思えた。
「んー……」
そう言いながら聖修はドアスコープを覗いているようだ。
「どうやら、ここの階に住んでいる住人のご婦人のようですね。 エレベーターを降りて、尚も、そこの前で、話をしているようですよ」
「はい？」
聖修のその声に反応する俺。 そう俺は少なくとも聖修より先にここに越して来ているのだから、このマンションに住んでる住人達の事は分かってもいるし、会えば挨拶をしているのだからよく知っている。
聖修の「おばさん」って言葉で、この階で仲がいいのは、あそことあそこの家の人だろう。
それならホントこのままでは、きっとおばさん達の会話は長引く可能性がある。 というのか、絶対的に話をし出したら止まらないのが、あの家のおばさん達だ。
「あ、きっと、暫く帰らないと思いますよ……。 あの、おばさん達、話をし出したら長いですから……」
「……へ？」
あの聖修が目を丸くして俺の事を見ている。
本当に今までアイドルとしての聖修は何十回、何百回って見てきたけど、俺の家の隣りに住んでくれた事で、プライベートの聖修の表情を見れるのは俺だけだと思うと、ホントに毎日が楽しいし嬉しい。 本当に本当に、ただただ毎日のように平凡な生活を送って来た俺には、刺激的な毎日になってきているように思える。 しかも普通に会話さえしている事もホントに嘘みたいだ。
「あ、いやー、おばさんの話は長いですからねー。 そうそう！ あのおばさん達は本当に仲いいですから、ちょっとやそっとじゃ、すまないですよ。 確か、お子様も同い年で、中学位から家族ぐるみで付き合ってるみたいですからね」
そう俺の方が後頭部を掻きながら答えてしまっていた。 まぁ、俺がそこまで照れ臭そうに話さなくてもいいのだけど、気付いた時にはそんな行動をしてしまっていたのだ。
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