あ、俺の部屋にアイドルがっ!

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あ、俺の部屋にアイドルがっ!

「あの……申し上げにくいのですが……暫くの間、上げさせていただけないでしょうか?」 「はい!?」  その聖修の一言に俺の声が裏返る。 しかも本当に目玉が飛び出そうな位に、今の俺はきっと驚いていたのかもしれない。 あ、いや……確実に驚いていた。 完璧に胸がドキーン! としたのだから少なくともビックリとしたという事だろう。  だって、あの有名人の聖修が! 俺からしてみたら憧れの聖修が! あの有名人である聖修が俺の家に来るなんてこと思ってもみなかったのだから、これが驚かないでいられる筈がない。  嬉しい申し出なのだけど、俺の部屋には本当に聖修のポスターやDVDしか置いてなくて、ある意味、人に見せられる状態ではない。 それに本人を目の前にして、所狭しと並んでいる聖修のグッズを恥ずかしくて見せられる訳もなく、だけど、自分の憧れであるアイドルを家に上げられるのは本当に嬉しい。 そこが悩ましい所だ。 要は恥を取るか? 喜びを取るか? っていう究極の選択状態なのだから。  人生の中で、ここまで究極の選択を迫られた事が今まであったのであろうか。  だから、今の俺っていうのは多分! 表情がコロコロと変わってしまっている。 そうだ! 人間っていうのは喜怒哀楽の人生なのだから、こうやって表情がコロコロと変わるのが一般的なのかもしれない。 俺はとりあえずそう思う事にする。  とりあえず目の前の状況をどうにかしないとならない俺。 確かにあのおばさん達は、もう子供が巣立ってしまったのか、夕飯の時間とかというのをあんまり気にしなくていい家なのか、本当にご主人様が帰宅してくるまで、話をしている可能性がある。 そしてあのおばさん達は、どうしてもお互い部屋には入れたくはないらしく、マンションの廊下で永遠会話を弾ませているのだ。  もう、ここは恥を忍んで、聖修を俺の部屋に入れて上げるしか選択肢はなかった。  ある意味あのおばさん達を恨みたい。 「あ、はい……どうぞ……」  そうもう俺は渋々ながらも、聖修にお客様用のスリッパを出す。 そして奥の部屋へと通すのだ。 一応っていうのはおかしいのだけど、ハプニングがあったせいで……あー、いやー、違うのかな? 何というのか……あのアイドルの聖修を自分の家に入れるのは本当に嬉しい事であって、だけど俺の部屋内というのは聖修のポスターとかグッズが沢山あって……それを聖修に見られるのは恥ずかしいというのか、もしかしたらそれを見た聖修が、引いてしまうのではないかという心配とかと、色々な気持ちが入り混じっている状態だ。  ……あー、しかし、この家には誰も呼んだことがない。 というのか呼びたくはなかった俺は茶菓子やお茶だって一切ない。 あるとしたら、ビールとか……あ! 一応、麦茶位はあるのかな?  それに自分の家なのだから完全に自分の城だ。 だから、どんな風にしたって自分の自由だろ? しかし自分の家にはもう誰も呼ばないと決めていたから、聖修のグッズだらけにしたのに、一番最初に来たのは俺の友達ではなく、俺の憧れのアイドルである聖修なんて考えてもなかった事なのかもしれない。 ホント、自分の趣味全開の俺の部屋。 家にはもう誰も呼ばないと決めていたのに、聖修がある意味、俺の家に初めて来た人物になる。  そして玄関を抜けると、ちょっとした廊下があって、それを抜けるとリビングへと繋がっている間取りだ。 それで廊下を抜けた左側にキッチンがある。  ……って、もう直ぐ俺の部屋じゃん。  廊下を抜けると先ずは六畳位のリビング。 その右奥にある部屋が完全に俺の部屋だった。  とりあえず聖修さんにはリビングの椅子に座って貰って……。  そう思っていると聖修は俺の部屋の方に視線を向けていた。  ……あ、やっぱり!?  こんだけ、がっつりポスター貼ってありゃ、そりゃ、見るよな……。 そこは、やっぱり憂鬱な所だ。 「本当に君は私のファンだったんだね……」 「あ、はい……」 もう身体中にある毛穴が開いて、今にも汗が吹き出してしまいそうな俺。 だけど、もうここまで見られてしまったのなら開き直ってしまった方が楽なのであろう。  しかし穴があったら入りたいとは、まさにこういう事だ。  俺はあまりもの恥ずかしさの余り、顔を俯けていると、 「でも、私的には、お隣さんが、こんなに私のファンでいてくれて嬉しいよ……」 「……へ?」 その言葉に俺は顔を上げる。  だってそうであろう。 男なのに本当に聖修のことが好きで好きで堪らなくて家中にその聖修のポスターだらけで、それをその聖修が見て気持ち悪いとか言わずに……逆に嬉しいって……今迄、恥ずかしがっていた俺の方が損しているような気がしてきた。
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