恋人になってからの名前呼び

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恋人になってからの名前呼び

 そんなことを考えていると、聖修が俺のことを心配そうに見つめている姿が目に入って来る。 「大丈夫かな?」 「……へ? あ、はい! 大丈夫ですよ!」 「でも、今の君……不安そうな表情してる……」 「あ、そ、そんなことは……」 何とか誤魔化そうとしている俺。  ……誤魔化すのは無理かな? でも俺だって聖修さんのことは本当に好きだ! あ、あれ? 俺、そういや、聖修さんから告白されて返事してなかったような? って、やっぱ、それじゃあダメだよなぁ? もう、あの時の俺は完全にパニック状態だったから……返事したことさえ覚えてないのだけど。 そこは順番逆になってしまうけど……いいのかな? ちゃんと返事した方がいいよな? と思った俺はゆっくりと半身を起こし……真面目な顔で聖修のことを見上げ、 「あ、あのさ……多分……俺、聖修さんの告白にまだちゃんと返事してなかったような気がするんだけど……。 だから……改めて返事がしたいんですけど」  そう言うと聖修も一瞬、首を傾げたものの俺の方に向き直してくれて、そこに俺には笑顔で返して来てくれる。 「だ、だからさ……聖修さんがせっかく告白してくれたのに……返事してないかな? って思い出したんだよね……」 と俺は照れ臭そうに俯いていたんだけど、今度はちゃんと聖修さんにも俺の気持ちが伝わるように聖修さんのことを見つめて、 「聖修さん……俺も……その……聖修さんのこと本当に好きだからさ……」 ま、これが俺から精一杯の返事かな? いや、本当はもっとちゃんと好きだってことを言いたいのだけど……流石に恥ずかしくて言えないってのが本音だ。 「クス……お返事ありがとう。 嬉しいよ……神楽さんも同じ気持ちでいてくれて。 ならさ、もう、名前でお互いのこと呼ばないか?」 「あ!」  ……あ、そうだ! 俺から、聖修さんに、そう提案すれば、もっと俺が聖修さんのこと好きだって気持ちを伝えられていたのかもしれない。 でも、ま、聖修さんがそう言ってくれたのだから、俺は…… 「聖修……」  そう名前だけで呼んでみた。  確かに俺からしてみたら、ライブに行く度に聖修の事呼び捨てにしていたのだけど……でも、今の呼び捨て方っていうのは、恋人になってから初めてなんだから特別なのかもしれない。  少し恥ずかしかったけど俺からしてみたら、ライブとかの時にはそう呼んでいたのだから問題はないという事だ。  あ、また、聖修がクスリってしてる……。 「ホント、恋人に名前で呼んでもらえると嬉しいよね……。 それじゃ、私も君のこと……尚って呼んでいい?」 そう聖修が俺の名前を甘く高くて色っぽい声で『尚』って言ってくれた瞬間、俺の方は全身が熱くなったのが分かった。 『尚』って名前は俺の名前。 もう何年も尚って呼ばれたことはなかった。 だから本当に特別なような気がして仕方がない。 ある意味、今はもう親しか俺の事、名前でしか呼んでくれていないのかもしれない。 会社では完全に苗字呼びだしな。 下手したら、もう何年も俺の方は名前の方で呼ばれていないのかもしれない。 確かに親とは電話するものの、最近電話でも名前呼びされていなかったようにも思えるからだ。 あー、しかし、あの憧れていた聖修に……『尚』って……名前呼びしてもらえるなんて……本当に今はそれさえも夢か現実か? って思える程だ。 それこそ特別っていう感じがして仕方がない。 だって大人になってからは恋人しか名前呼びしてくれないもんだろ?
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