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伯爵家の至宝、皆に愛されるマーガレット嬢は可愛らしい五歳の女の子である。伯爵家には跡継ぎとなる十五歳の息子がいるのだが、年を経て授かった第二子がマーガレット。
つぶらな瞳、ふっくらとした頬。はじめてお姿を見たとき、ミアは「ここに天使が降臨している」と感動したものだった。
その天使が、ミアがつくったお菓子を食べて「とってもおいしい」と瞳を輝かせ、「もっとたべたいわ」とおっしゃったと聞き、そのときばかりは実家で雑用を押しつけてきた義母と義妹に感謝してもいいと思わなくもなかった。
「ミアのおかしはとってもおいしいの。おじさまもよろこぶの」
「ありがたいお言葉ではありますが」
「じゃあ、いきましょう!」
「ですからっ」
あわてるミアの傍に音もなく寄ってきた老執事のカーターが、マーガレットに聞こえないぐらいの小さな声で囁く。
「申し訳ありませんが、お付き合いください」
「ですが」
「お嬢様は仕事というものに興味をお持ちなのです」
先日たまたま通用口にやってきた少年を見て、あれはなにかと問うたらしい。少年は親のお使いとして野菜の配達に来ていた。
自分に近しい年齢の子どもが働いていることに衝撃を受けたマーガレットは「わたしもだれかにとどけものをしたいわ」と言ったとか。
誰になにを届けるか。
白羽の矢が立ったのが「おじさま」だった。
彼の名はシルヴァン。伯爵家に来て間もないミアは会ったことがないが、マーガレットはこのおじさまに非常に懐いているらしく、父である伯爵が嫉妬するほどの心酔っぷりだとか。
シルヴァン氏は未だ独身らしく、「おじさまのおよめさんになる」発言を伯爵は恐れている。「初恋こじらせヘタレ男にはやらん」だそうだ。
シルヴァン氏も気の毒に。初恋に殉じる、いいじゃないですか。
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