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シルヴァンは王宮に勤めている。忙しいのか最近はまったく伯爵家に顔を出していないそうで、マーガレットはおかんむりだ。疲れているときは甘いものがいいと耳にした天使は、ならばお菓子を差し入れしようと考えた。
そのお菓子として、最近気に入っているミアの菓子を選んでくれたのはありがたいが、王都で人気の菓子店から購入したほうがいいような気がする。
知らないあいだに話がすすみ、なぜかミアがつくった菓子を、おじさんなる人物に差し上げることとなり、それを届ける役目は幼いマーガレットが担うことになったのである。
マーガレットはあくまでこっそり出かけ、大いなる仕事をまっとう。みんなに褒めてもらったり、驚いてもらったりして、「もうすっかりお姉さんになりましたね」と言ってもらいたい気持ちが見え見えだが、五歳がひとりで王宮に行けるわけもない。マーガレット自身もそのことはわかっていたのか、同行人としてミアを選んだ。
というのを、マーガレットがお着替えをしているあいだ、カーター氏から聞かされた。
当然のことながら、五歳の考えなど周囲にはお見通しなので、安全に出かけられるように根回しはしてあるし、おじさん本人にも伝達済。王宮へ向かうまでの道のそこかしこに護衛を配置してあるし、途中で拾う予定の辻馬車は伯爵家が用意したダミーである。
王都へ来たばかりで地理に疎いミアが、きちんとマーガレットを王宮へ連れて行けるよう、そのあたりの準備も万端であった。呆れるしかない。
「マーガレット様のはじめてのおつかいミッション。どうか見守ってさしあげてください、ミアお嬢様」
「……あのカーターさん、お嬢様はやめてください。私はもう子爵家を出た身です。貴族令嬢ではありませんもの」
「まったく、あの家はろくでもありませんね。ユリア様の亡きあと、すぐ様後妻としてあのような者を招き入れ」
「そうやって大口を叩いて我が家を追い出されたカーターと再会できたのだから、わたしも実家を出てよかったのよ、きっと」
なにを隠そう、カーターはミアの実家にいた執事である。もともとは、ミアの母・ユリアに付いてきた男だったため、ミアの父は彼を好いていなかった。母が亡くなったのをいいことに暇を出し、カーターにとっての主人であるユリアが不在ならば用はないと子爵家を去っていった。
母が亡くなったのはミアが十二歳のときだった。そこから幾年月、再会してすぐに気づかれるとは思わなかった。
母と同じ黒髪のせいかもしれない。黒髪は王国の東側でも、特定の一族の血統らしく、数が非常に少ないという。
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