初恋はシナモンの味がした

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 マーガレットを伴って邸を出る。  本日の衣装は、スカート丈は膝が隠れる程度で、フリルもレースもついていない。富裕層のご令嬢、ぐらいの装いだ。  肩掛けの小さなカバンには、ハンカチと飴。名前を書いた紙も入っていて、万が一にもはぐれたときは「走らず、騒がず、座って待つ」と約束してあった。  ミアはいつものお仕着せではなく、外出着を用意してもらっていた。  なにしろ向かう先が王宮である。伯爵家の者であることを証明する物は持参しているが、ドレスコードというものがあるだろう。ラングス伯爵家の名を背負っている以上、いかに使用人とはいえ無様な恰好はできなかった。 「ではお嬢様、まずは馬車を拾いましょう」 「ひろう? ばしゃはおちているものなの?」  そういえば、なぜ『拾う』というのだろう。深く考えたことのない意味を問われ、ミアは悩む。 「言葉にはいろいろな意味がありますね。同じ言葉でも違う用途――やろうとしていることに使ったりします」  加えて言うと、住んでいる地方独特の言い回しもあったりして、言葉というのは難しい。  ミアの母は国の東地方出身だが、正反対の西側へ嫁いだ。  もともとこの国は、多様な民が暮らす複数の都市がひとつにまとまった国であるため、地方によって別の言葉を使ったりもしている。共通語から派生した言語を多く持つ風変わりな国家として知られ、中でも東西は独自色が強い。その両方出身の両親を持ったミアは、貴族のお邸では重宝されていた。 「おなじくにでも、すんでいるばしょによって、ことばづかいがちがうのよね。でもそれは、おかしなことではないのだっておじさまが言ってたわ」  瞳をキラキラさせてマーガレットが言う。 「あのね、おじさまはことばのせんせいなのよ」 「先生ですか」  おじさま情報をひとつ得た。  シルヴァン氏は王宮の文官だろうか。あるいは、若人へ知識を伝える講師のような役職かもしれない。
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