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「おじさま、とどけにきたわ!」
その言葉にハッとして、ミアは前に進み、胸の前に抱いていたバスケットを差し出す。
「お嬢様からのお届けものでございます」
「おじさまがミアに会いたがってるって、おとうさまが言っていたから、わたしがとどけにきたの」
ミアは首を傾げた。
会いたいって、わたしに?
思わずシルヴァン氏の顔を見る。
彼のほうも驚いたようすで、マーガレットからこちらに目を向け直したところで、視線が絡んだ。
透き通った紫水晶のような瞳に見据えられ、ミアの胸が騒いだ。どこか見覚えのある美しい色の瞳――
「ミアなのか? 本当に?」
「もしかして、あなたレノ?」
そこに、ドバンと大きな音を立てて扉が開き、男性が入ってくる。マーガレットが「おとう様!」と叫んだとおり、彼はラングス伯爵であった。
「わたし、おじさまにミアをおとどけできたのよ」
「さすが私の娘、なんという天使! シルヴァン。おまえは今から休憩だ。ミアが持ってきてくれた菓子を存分に味わいたまえ」
「……叔父上」
娘を連れ、伯爵は慌ただしく去っていった。
そうして部屋に残されたのは、ミアとシルヴァン。
「状況が理解できていないんだが、君は、あのミア、でいいんだよな?」
「それはこちらの台詞です。レノというのは偽名かなにかですか?」
「僕の名前はシルヴァン・レノ・サヴォワ。祖父がシルヴァニオという名だったから、子どものころはレノのほうを名乗ることが多かった。それだけだよ」
豪奢な執務室には給湯室が備え付けられており、ミアは断りを入れてから、紅茶を用意した。茶器を持って戻り対面に座ると、それを待っていたように話を始めた。
「この棒状の固焼きクッキー。他では見たことがないんだ。ナッツが入っていてシナモンが効いている。ユリア殿が作ってくださったものと同じこれを叔父上が持ってきたとき、すごく驚いたよ」
「たしかにこれは母のレシピですが」
「作った女性の名前はミア。あのカーターが心酔する元主人の忘れ形見だって言われて、もう間違いはないと思ったんだ」
カーターはすべて知っていたようだ。当時、母の授業に同席していたから、レノのことだって記憶していただろう。
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