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ぎゅうぎゅう詰めの他の場所と違って、人っ子一人いない一角があった。
ポツリと一つ、屋台が寂しく立っている。
祭りの空気を求めた客が寄りつかないのも道理。異様な光景だ。
黒い屋根。蒼白い光を放つ提灯。黒い着流しの男がただ一人、黙りこくって立っている。
「こんにちは」
ふいに静寂を破る、半分笑ったような声。ルカだった。
「店主さん、お久しぶりです。今年も相変わらず、陰気なお顔ですね」
ハレ着を見せびらかすように、浴衣の両袖を持ち上げてクルリと回る。それでも店主はルカの方に視線を寄越すだけで、他はピクリとも動かなかった。
「これ、ひとつください」
ルカは、濃いクマをつくった店主の顔を覗き込み、屋台の右側に掛けてある小さな木の看板を指差す。そこには、やる気のない字で『こんぺいとう』とだけ書かれていた。
「……はいよ」
透明な袋に入れられた、素朴な白い星形。
「ありがとうございます」
受け取ったルカは、スキップでその場をあとにしつつ、小さな一粒を口に含んで微笑んだ。
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