0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふふふ。あのひと、今年も気づかなかった」
出会った時を憶えているのは、私だけ。ルカは、心の中で嘯く。
破れたポイを見つめて、難しい顔をした小さな男の子。黒い甚平を着ていた。
その横にしゃがみ込んだ。めいっぱいのお洒落をして、ちょっぴりおませさんになって。
「どうしたの?」
男の子は、ケースの中で泳ぐ、ひときわ大きな金魚を指差した。珍しい、真っ白な金魚だった。
涙目で、駄々っ子のように少しふてくされた顔。
思わずプッと笑うと、ムッとしかめっ面になるのが可笑しかった。
「だいじょうぶ、まかせて」
年下の子に先輩風を吹かせるのが、いい気分だった。
まだ口に残っている星形は、甘い中に、ちょっぴり香ばしさがある。
「ちょっと焦がしてる」
数秒、眠気に負けてしまったのだろうか。想像した姿の可愛らしさに、また笑みがこぼれる。
本当に、健気で素敵なひと。
「夜なべして、早くこっちに来たりしたら、許さないから」
でも、今夜だけは。
踊りは続く。
最初のコメントを投稿しよう!