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「あ! 先輩のノート持って帰ってきちゃった」
数学の宿題をやろうと思って、カバンの中からテキストを出そうとすると、見慣れない水色のキャンパスノートが入っていることに気が付いた。
放課後、図書室で先輩に英語の和訳を教えてもらったから、その時に紛れ込んだに違いない。
先輩のノートを手に取って背表紙を見ると、そこにはかっこよく筆記体で"Yano Yukito"と書かれてあった。
私は、先輩が書いた文字を指でなぞりながら、先輩の名前の漢字を頭に思い浮かべて、声に出してみる。
「矢野 幸杜」
ただそれだけのことなのに、妙に気恥ずかしくて、首筋がムズムズっとこそばゆくなった。
「矢野先輩」「や……矢野くん」「ゆきと……くん」「ゆ、幸杜っ」
少々照れながら、呼び方を変えて何度も先輩の名前を呼んでいたら、「なに?」と私の顔を覗き込む優しい先輩の顔を思い出した。
ひゃ〜!
私は興奮のあまり、先輩のノートを胸に抱いて、その場で高速足踏みをした。
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