3人が本棚に入れています
本棚に追加
── 思い入れが深い物には魂が宿る。
その言葉を信じている田所 直美は、今日も道端に落ちていた物をそっと拾い上げる。
それはいわゆる落とし物で、太陽の光により反射したハートのキーホルダーだった。
それを優しく握り締めた彼女が目を閉じると、脳内に浮かぶのは一つの記憶。
小学校中学年くらいの女の子が、それをランドセルに付けて可愛らしく笑う姿。
ゆっくり目を開けた彼女は、一言。
「……持ち主の元に帰りたいよね?」
そう呟き、歩き始める。
高校一年生の夏休みが半分ほど過ぎた、八月上旬。
真昼の太陽が照り付ける中。雑貨屋、図書館、そして児童館に足を運ぶ。
すると直美は、一人の少女に声をかけた。
「これ、落としてたよ」
「……え? あ!」
相手の表情から持ち主だと確信した直美はそれを渡し、物言わず去って行く。
このように、物に触れ目を閉じ「持ち主との思い出を見せて欲しい」と念じれば、それが映像として脳内に映し出される。
直美は、そのような特殊能力を保持している。
だからこの力を使い、落とし物を持ち主に届けるという善用を繰り返していた。
しかしそれは善意の感情だけでなく、「物を届けなければならない」という異常なほどの執着心からだった。
最初のコメントを投稿しよう!