たとえこの先、見届けられなくても

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 まずはスマートフォンを手に取り、操作を始める。  これは中学入学のお祝いに買ってもらった物で、ある意味一番同じ時を過ごした物だった。  好きな歌を聴き、友達とメッセージのやり取りをし、思い出の一コマを残す為に写真を撮る。  しかし最近は、写真やメッセージのやり取りを見返すことも音楽を聞くこともなく。ただの連絡手段としての活用のみで、彼女は過去を振り返るのが怖かった。  改めて確認して分かったのは、やはり写真データが減っていること。  それに中学時代の友人とのメッセージのやり取りを確認すると、所々会話が噛み合っていない場面が見受けられた。  それはまるで、「特定のやり取り」を自分に見せないように誰かが意図的に仕組んでいる。  そんな、背筋も凍る発想が直美を支配する。  まさか、私に記憶がないのも?  そう思い、他に記憶のない物を確認しようと部屋を見渡すと。目に留まったのは、高校の通学鞄に付けてあるうさぎのマスコットキーホルダー。  しかし、これに関しては母親が買ってくれたことを覚えており、ランドセルや中学の通学鞄に付けていた記憶がある。  だが何故か、今日に限ってはそれを見ると襲ってくる頭が割れそうな痛み。  彼女はまた全神経を集中させ、キーホルダーの記憶を視る。  映し出された記憶は、虫が鳴く夕暮れ時。  公園の草むらに跪いて、手探りで何かを探すような仕草をする小学校低学年ぐらいと思われる男の子と。その姿を、泣いて見ている女の子だった。 『……もういいよ』 『大丈夫、見つかるから』 『でも……』  声を上げて泣く女の子に、男の子は手を休めず話し始める。 『……思い入れが深い物には魂が宿る、と聞いたことないか? 大切にされていると物は生き物みたいに、嬉しい悲しいの感情が芽生える。だからキーホルダーだって、直美と離れるのは淋しんだよ』 『……うん』  それを聞いた女の子は、一緒に草むらを探す。  日没が迫まる頃、それはようやく見つかった。  男の子が手渡し、女の子はそれはギュッと抱き締める。 『ありがとう』  そう告げたその子は、夕日に照らされる彼をただ眺めていた。  脳が揺れる感覚に顔を歪めながら、直美は目を開ける。 「誰……?」  そんな言葉が溢れていた。  あの女の子は、子供の頃に自分で間違いない。  でもそれなら、自分を「直美」と呼ぶあの男の子は?  『思い入れが深い物には魂が宿る』。  それは彼の言葉だったのか?  やはり何か大切なことを忘れている。  それは、あの男の子のことなのだろうか?  何かを届けないといけないと思っていたが、それはこのお守りだったのではないか?  意識が遠のいていく中、そう心付いた。
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