たとえこの先、見届けられなくても

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 日が高く昇ったころに目を覚ます。  割れそうな頭を抱えて不意に過ぎるのは、「何かを届けないといけない」、「行かなければならない」という強迫的な感情。  また今日も外を出歩こうと準備を始めるが、そこで部屋に鳴り響くのは。彼女が好きなアーティストの歌で、着信音に設定するぐらいの曲だった。  その音に反応した彼女は、逸る思いでスマートフォンを握り相手を確認するが、アプリから勝手に流れた音だと気付く。  以前より、スマートフォンは彼女の意図に反した挙動を繰り返しているが。それを誤作動だと機能に不満を持つより、着信ではなかったと脱力するようになっていた。  すると、ふっと目に入ったのは机に置いてあるお守り。  それを手に取った彼女は、ただそれを握り締める。  届けないといけないのは、自分で作ったお守り。  行かなければならないのは、あの男の子が居る場所。  やはり自分は、大切な記憶を忘れている。  今、向き合わなくてどうするのだろう。  そんな思いで、直美は家族共用パソコンを開く。  撮影したデータ全ては、この中に入っているはずだと彼女は慣れた手付きででマウスを操作する。  キーホルダーの記憶に映っていた小学校低学年ぐらいの写真を探すが、それらしき男の子が写っているのは一枚もなかった。  そしてスマホより移した中学校三年間の写真データを確認するも、スマホに残っていた写真と同様だった。  ……何かを隠されている。  そう悟った彼女は、一人頭を抱えてしまった。  スマホやパソコンだけじゃない。一年前より、周囲がよそよそしくなった。  何かを隠している。両親も友人も周りの大人達も。  そう思った彼女は何を信じていいか分からず、混乱の中思い浮かぶのは「届けないといけない」という当てもない感情のみ。  また今日も町を彷徨うであろう彼女を止める為、「」とうとう声を出すことにした。  ピコン。 「……え?」  スマートフォンより鳴る、メッセージアプリの音だった。  私を手に取った彼女はより険しい表情を見せてきて、その手の震えから彼女の心情が察せられる。  まあ無理もない。だって私が液晶パネルに出したのはこの一文。 『私の記憶を見て』だったから。
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