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── 思い入れが深い物には魂が宿る。
私は彼女の所有物になり三ヶ月ぐらいが経った頃に、自我に目覚めた。
いつも私をポチポチと触り、音楽を聞いては歌い出し、変わっていく画面を見てクスクスと笑い、そしてこちらをまじまじと見つめて頬を赤らめる。
私は彼女が望む動作をして、常に行動を共にしているからその考えが手に取るように分かるようになった。
そんな日々が続いた二年後、彼女の人生が大きく変わる出来事が起こる。
彼女の幼馴染男性が病気を抱え、精神的に不安定になった彼女の世界は彼だけになってしまった。
見かねた大人、友人、幼馴染の彼自身も「自分の人生を大事にするように」と言われていたが。彼女にはその言葉は届かなかった。
そんな彼女に、なんとかしたかったけど当然何も出来ない。
私は所詮、スマートフォンと呼ばれるただの物。
いくら魂が宿っていても、体を動かすことも、私自身の機能を動かすことも、話しかけることも出来ない。
出来ることは一つ。彼女を見守ることだけだった。
そんな時。病気を抱えた幼馴染の彼が、私に話しかけきた。
彼女は今、高校受験を控えている大切な時期。このままでは、この先の人生に影響が出る。
自分への情を断ち切らせる為に、今までの二人の思い出を暈して、彼女に新たな人生を生きるキッカケを作って欲しいと。
彼は「魂が宿った物と話ができ、能力を与える」という力を保持していると言っていた。
時間をかけて話したかったけど、私は彼女の所有物。
話が出来るのは、入院中である彼の病室を訪ねた彼女がウトウトと眠ってしまった限られた時間だった。
悩んだ結果、私は彼の願いを聞き入れると決めた。
彼に安心して病気療養してもらう為、そして何より彼女にこれ以上苦しんで欲しくなかったから。
その意志を彼に伝えると「思い出を暈す能力」と「スマートフォンとしての機能を使用出来る能力」を授けてくれ、彼女を見守って欲しいと頼まれた。
能力が使用出来るのは、彼女が私を使用している時。
それは容易で、彼女が自分を眺めている時にその力を使用し。また彼女を混乱させない為に、彼の写真と連絡先、メッセージ履歴だけでなく。友人とのやり取りでも、彼に関するやり取りは全て消した。
しかし、この力を使用して想定外のことがあった。
思い出を暈すどころか。彼女は「彼との思い出」も、「彼の存在全て」を忘れてしまった。
どうゆうことかと混乱したけど、その理由はすぐに分かった。
彼女は「物の記憶を視る力」を保持している。
その力は脳内に映像を焼き付けている為、通常の人間より負担がいっている。
そんな人間の記憶を操作したら、他を忘れてもおかしくない。そう気付くべきだった。
周囲の人は彼女の変化に混濁していた。
それはそうだろう。前日まで時間さえあれば彼の元に向かっていた彼女が、突然彼の存在を忘れてしまったのだから。
心配した母親に病院に連れて行かれたけど、心配していた脳への影響はなかったみたいで。身近な人の病に精神的なショックを受けて、自分を守る為に脳が自身を守っているのだろうと結論付けられた。
それを知った両親や友人、周りの大人は彼の話をしないように考慮し。母親がパソコンに入っていた全てのデータを別の場所に移して、彼の写真を削除していた。
こっそり見た私の中に保存されている写真はなくなっていると驚いていたけど、彼女が消したのだと思ってくれたようだった。
想定外のことは起きたけど、彼女を守ることが出来た。
彼女は受験を終わらせ、無事に高校進学が決まった。
全てが終わった。……そう思っていたけど。
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