たとえこの先、見届けられなくても

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『写真がない! 減ってるよね?』  私を操作しながら、手を震わす彼女が居た。  中学卒業となり改めて写真整理をしようとし。とうとうデータが減っていること、記憶の一部が抜け落ちている事実に気付いてしまった。  消えた写真が何かは覚えていないようで。パソコンにないかと探すけど、既に彼女の母親が削除済み。  彼女は余計に混乱していくようになった。  そんな彼女は高校生になると、「届ける」ことに執着し始めた。  辛うじて授業は受けていたが勉強も友達作りもせず、道を歩き回り落とし物を拾っては、その思い出を視て届ける毎日。  それは彼しか見えなくなってしまった中学時代に、戻ってしまったようだった。  物の記憶を視ることが増え、そのせいで脳が震える感覚に苦しんでも、それこそ倒れてしまってもそれを繰り返すようになり。「届ける」という概念に縛り付けられてしまった彼女は、どんどん疲弊していった。  記憶が抜け落ちているのは、自分が力を使い過ぎているせい。  そう自己完結してしまっている彼女は、誰にも相談出来なかった。  そうなった理由は分かっている。  記憶を消す直前まで彼女は彼に渡すお守りを作っていて、それを翌日に届けるつもりだった。  それを、記憶を消したことにより妨害してしまったからだ。  結果、彼の記憶と存在を忘れてしまったけど、「誰かに何を届けないといけない」という当てもない感情だけが残ってしまったのだろう。  私は彼女が力を使わないように働きかけたけど、それは一時凌ぎだった。  スマートフォンの機能を使用し、彼からの着信音にしていた音楽を流したり、アラームを出したりして一時的に気を逸らすことは出来たけど、彼女はすぐに行動を取ってしまい、それを制御することは出来ない。  このままでは命に関わる。  それは彼女自身が一番自覚していることだったけど、湧き上がる感情を抑制出来ない。  だから、私が止めなければならない。  その方法は一つ。  あのお守りを、彼に届けさせること。  それが果たせば、彼女はこの呪縛から解き放たれるだろう。  その為には、彼女に記憶を取り戻してもらわないといけない。  彼女の脳には、ごく僅かに記憶が残っている可能性がある。  身勝手だけど、それに賭けるしかなかった。  だから、あのお守りを彼女に見つけてもらう必要があった。  あれは一年前、記憶を消す前日に彼女が作りあげた物。  その思い入れは強く、魂が宿っているかもしれない。  夏物リュックの小さなポッケに入ったままとなったお守りの存在を忘れてしまっていた彼女は、それを探すことはしていない。  だから、それを彼女の手に渡らせる。  その為にしたのは鞄を濡らし、表裏を反対にさせひっくり返させること。  だけど私はスマートフォンの機能は操作出来るけど、身動きが取れるわけではない。  出来ることは気を逸らすという、どこまでも間接的なやり方だった。  彼女が外で水筒の水を飲むタイミングで、着信音を鳴らし気を逸らし、締め忘れを狙う。  そんな無謀としか言えないやり方で。  やり過ぎると不良品として、新しいスマートフォンを迎えられてしまう可能性がある。  分かっていたが、私は止めなかった。  そんなことを繰り返して二週間。  彼女はやっと締め忘れ、帰って来た時に鞄を置いた衝撃で水筒が傾き鞄の中で水が溢れてくれた。  やっとお守りを手に取り記憶を視た彼女は、余計に難色を示した表情を浮かべ、苦しんでいく。  彼女を思っていてくれた両親や中学時代の友人を疑うようになり、追い詰められていった。  私の記憶を見れば事の全てを知ることが出来るけど、私はそれを提案しない。  だって、能力を使った相手にその正体を知られるのは魂の消失を意味するから。  私はただの物。使えなくなれば捨てられる運命。  だけど彼女の思い入れが失くなるまで、側で見守ると決めていた。  でも、彼女には幸せになって欲しい。  だから、私は。  ピコン。 「……え?」 『私の記憶を見て』
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