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「教えてくれてありがとう」
そう言ってくれた彼女に、私は電話を繋ぐ。
勿論それは彼であり、彼のデータは削除していたけど番号はしっかり記憶していた。
こうなるかもしれないことを、想定していたのかもしれない。
会話の内容から分かる。
直美は全ての記憶と思い出を取り戻していて、完全に記憶は消えてしまったわけではなかったみたいだ。
電話をかけられた彼は驚いていたみたいだけど、その声は弾んでいて嬉しさが溢れていた。
どうやら彼は自宅療養まで回復したようだった。
会う約束をした彼女は出かける準備を始める。
リュックを背負い、左手にはあのお守り、右手には私を握りしめて。
「帰ってきたら話をして良い?」
そう私に話しかけてくる声に、『うん』と返事をするけどそれは叶わないだろう。
私の魂はもう少しで抜け落ちてしまうのだから。
だけど私は見届けたい。あの日、私が奪ってしまったその瞬間を。
彼女がお守りと共に、届けようと思っていた気持ちを。
待ち合わせ場所に近付くと、私を握る手が震えてきたけど彼女はただ前に向かって歩いていく。
するとそこには一年前とは違い、健康的になった彼の姿。
「直美」
「亮!」
そう叫んだ彼女は、ただ無心に駆けてゆく。
「あのね、私もう泣かないから。自分の人生を生きるから、側に居させて欲しいの」
そう告げた直美は、あの日作ったお守りを彼に渡す。
その目に涙は無く、彼を見つめて微笑む。
その言葉をも届けたかったのかと心付いた私は、余計なことをしたなと思い。押し寄せてくるものに争わず、身を任せることにした。
もう直美は大丈夫だと確信し、私は静かに眠った。
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