たとえこの先、見届けられなくても

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 ── 思い入れが深い物には魂が宿る。  その言葉を信じている田所(たどころ) 直美(なおみ)は、今日も道端に落ちていた物をそっと拾い上げる。  それはいわゆる落とし物で、太陽の光により反射したハートのキーホルダーだった。  それを優しく握り締めた彼女が目を閉じると、脳内に浮かぶのは一つの記憶。  小学校中学年くらいの女の子が、それをランドセルに付けて可愛らしく笑う姿。  ゆっくり目を開けた彼女は、一言。 「……持ち主の元に帰りたいよね?」  そう呟き、歩き始める。  高校一年生の夏休みが半分ほど過ぎた、八月上旬。  真昼の太陽が照り付ける中。雑貨屋、図書館、そして児童館に足を運ぶ。  すると直美は、一人の少女に声をかけた。 「これ、落としてたよ」 「……え? あ!」  相手の表情から持ち主だと確信した直美はそれを渡し、物言わず去って行く。   このように、物に触れ目を閉じ「持ち主との思い出を見せて欲しい」と念じれば、それが映像として脳内に映し出される。  直美は、そのような特殊能力を保持している。  だからこの力を使い、落とし物を持ち主に届けるという善用を繰り返していた。  しかしそれは善意の感情だけでなく、「物を届けなければならない」という異常なほどの執着心からだった。
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