未来文

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「それがそうでもないんだよね。ほら、前に話した彼女がさ、日本に戻ってくるって話なんだよね」  そう、別れた原因というのが彼女の渡米だったらしいのだ。 「え、そうなんですか?いつ…」 「いや、まだ半年後とかなんだけど。詳しい日程はまだ未定らしくてさ。どうしたもんかなって」  どうしたもんかな、というのはまだ想いがある証拠なのだと思う。けれど、下手に口を出すのもなんだか違う気がして言葉に詰まった。  実際、遠距離で何ヶ月かは過ごしたらしいのに、結局帰ってくる目途が立たないこと、フリーランスとはいえ彼が日本を離れることはできないこと。なによりも、遠距離で続けていけるだけの胆力が彼女にはなかったということ。それが一番の別れの原因だったという。彼女が渡米をしてから、もう二年が過ぎているという話だった。 「まだ、連絡を取られてたんですね」  私は一先ずそう切り出した。できるだけ、彼の心に寄り添いたかった。 「たまにだけどね。あまり未練がましくしても、嫌われるだけだからさ。ただ、本当にたまに向こうからも連絡が来るんだよね、どういうわけか」  そんなの、向こうにも未練があるからに決まっている、と私はすぐさま思った。けれど、私は彼女の人となりを知らない。別れ方も知らない。だからむやみやたらと無責任なことも言えなかった。力になれないもどかしさが、心をかき乱す。 「今日はだから、家で悶々としていても仕方ないし、仕事にも集中できないしで…いつも通り息抜きに来たというわけ」  言って、牧田さんはどこか弱々しくはは、と笑った。いつもだったら快活に笑う彼を見てきただけに、彼の心の乱れようが見て取れた。こんなに人を想うのは、辛いことも多いだろうに。そう浮かんだけれど、それでもどうしようもないくらい人を想ってしまうことがあるのも、私は知っている。 「コナ。珍しいですよね、頼まれる方。どうしてコナを最初に選んだんですか?私の記憶だと、牧田さんはコナ以外頼まれたことがないですよね」 「よく覚えてるね。お客さんの頼むもの、みんな覚えてるの?」  牧田さんが眉を上げてそう言うので、私はうーんと考えてしまった。 「みんな…ではないと思いますけど、記憶力は良い方だと思いますよ。数少ない常連さんのことは流石に覚えてます」  すこし胸を張った。私にできることはそんなに多くはないけれど、デキることは最大限に活かしてやってきたつもりだ。
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