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だからわたしは、反対だった
だからぼくは、反対だったんだ
そんな大それた魔法実験なんて誰も望んでいなかった
惑星コアに干渉する? 惑星コアから魔力を取り出す?
わけがわからないよ。
わけがわからないね。
わたしたちはずっとここで なにひとつ不自由なくやってきたでしょう
ぼくたちは、ずっとずっとここで生きてきた
けれど無謀な大実験のその果てに、
軌道をそれたぼくらの星は、
いま急速に崩壊しながら虚無の塵に還ろうとしている
すべてのものが消えてゆく あらゆるものが無くなっていく
あれだけわたしが好きだった ネイトアトの花の咲く谷も
ぼくがあれだけ大好きだった きみと走ったオイセマキアの星砂の浜も
なにもかもが消えていく。好きだった星が消えていく 好きだった街が溶けてゆく
あれだけあれだけ ぼくらが好きで守りたかった全部の場所が
もうすべて、色ない虚無の塵へと溶けて溶けて分解していく
あれだけあれだけ熱かったわたしの思いも あれだけ何度も描いて語ったぼくらの夢も
もうすべては秒読みの 光ない声なき闇の奥の奥へと落ちて砕けて散っていく
残された時間は、あとわずか
わたしはきみの手をとって、ぼくはきみの手をにぎり、
祈ろう。祈るよ、神さまどうか支えてください、
わたしとぼくの、最初で最後の大魔法、
ここにあった、わたしとぼくとが大好きだった、
色と、香りと、温度に満ちた 大好きだった花咲く星の、
すべての希望、すべての思い、すべての夢を、
遠い誰かに託したい
まだ見ぬ誰かに届けたい
この夜、このとき、
いま終わりゆくぼくたちの世界の、わたしたちの星の、
思いを、記憶を、熱を、心を、人々を、花を、風を、輝いていたあの空を、
この星に吹いてきた幾万の風の記憶、
この星の海で響いてきた海獣たちの歌声を、
尽きることのないはずだった ぼくとわたしが大好きだったこの波音を、
どうか。どうか。
聴いてください。知ってください。消さずに覚えていてください。
わたしたちが、今日までここにいたことを。
ぼくたちが、今までこの大好きな風吹く星の上で生きてきたことを。
わたしとぼくの この限られた微力な小さな魔力では、
いまこのふたりの力では、飛ばせるものは限られている、
とても限られているけれど、
それでもぼくらは、それでもふたりは、
滅びに抗い、すべてを賭けよう、
ふたりでつむぐ最後の魔法、
どうか届いて、お願いします
まだぼくも知らない、わたしがけっしてたどりつくことができない、
夜空の先へ、消えゆくこの星、覆いつくすこの暗闇をのりこえて、
ずっと先へ、ずっと先へ、
何もない暗闇だけが支配する、あの虚無の先へと貫いて、
どうか、これを。
どうか、これを。
飛ばして。届けて。伝えて。刻んで。
すべてを誰かに託したい。
そして守ってほしいのです
ぼくも、もう、まもなく消えてとけてゆく
わたしの体も、いまもう、果てなき夜に閉ざされたこの星とともに散り失せてゆくでしょう
けれど、
だけど、
わたしたちが今日まで見てきた輝きを、
ぼくたちの星が、今まで刻んできた日々を。
そこにあったはずの歌を。
思いを。記憶を。熱い心を。涙も声も汗も鼓動も笑顔も叫びをも。
すべてを、どうか、受け取って。
さあ、では始めよう。最初で最後の大魔法、
わたしと、ぼくは、
体に残った命の魔力を、
すべて、すべて、残さず全部、
つないだ両手の中に生まれる、この小さな熱の、
この、最後の、ほしの、さいごの光の、最後の粒子にそそぎこむ。
願いを。希望を。思いを。心を。記憶を。記録を。
さあ、いま、
光の粒子を滅びの夜空に投げ上げて、
飛ばしてゆく。飛ばしてゆけ。飛ばしてゆこう。
光よ飛べ、思いよ羽ばたけ、あの暗闇の空の先へ、闇を貫きその先へ、
何兆光年もの虚無の虚無の果てしない暗闇を貫いて、
さあゆけ、さあ飛べ、さあ、貫いて
ゆくんだ、行くんだ、暗闇をこえて。
ふたりの命の最後の魔力、ぼくらが放つ最初で最後の大魔法、
二人が溶けあう、二人のすがたが塵へと離散し もう無の一部へいま還りゆくこの瞬間に、
どうか光よ、
どうか、超えて、
どうか、虚無さえ貫いて、
さらに遠くへ、もっと遠くへ、
消えゆくぼくらのせかいのずっと外、
はるかな高みへ、まだ見ぬ高みへ。
光よどうか、伝えて。届けて。
ぼくと、わたしと、ふたりの星が、
刻んで、愛して、包んで、ずっとずっと続けていきたかった、
記憶を。記録を。日々を。歌を。夢を。思いを。光を。声を。
どうか、 そこへ。
百億百兆百垓の、暗闇を突き抜けたその先の、
まだ見ぬ誰かが 待っている、
遠い世界のどこかへと、
つづいて、ゆけ。 とどいて、ゆけ。
貫いてゆけ。
つづいて、ゆけ とどいて、 ゆけ、
とどいて
とどけて
どうか、どうか、
まだみぬ とおい そのさきへ
どうか どうか、
そ の さき へ
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