西暦三〇五七年の速達

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 タナカ、あの配達人は帰った? ーーそう、それならよかったわ。  わざわざあんな報告を郵便で送ってくるなんて銀河辺境開発庁とエネルギー省の官僚たちにも困ったものね。官僚たちが送ってきた速達には、私たち政府が狙っている辺境の星にまだ発見していないエネルギー鉱山が多くあることが記されていたわ。  それから、官僚たちは他にもう一つ私に届けたいものがあった。ーーあの配達人のもつ情報よ。  偶然にしてはおかしいと思ったのよね。私たちが狙いを定めている辺境の星の子をわざわざ配達人として私のもとへ寄越すなんて。だから少し話を聞いてみたの。私が昔から尋問が得意なことも、必要な情報は自分で確かめたい性分だということも、官僚の連中は知っているから。  それでわかった。あの子はエネルギー鉱山の情報を持っていた。あの子のかわいそうな弟が入院している病院の裏にある鉱山。そこは地球政府も地球軍もまだ把握していない。  タナカ、今から軍の司令部に向かうから準備をしてちょうだい。この情報をもって、あの子の星の付近に待機している地球軍五千隻の宇宙艦隊を進軍させるのよ。  地球のエネルギー不足は待った無し。地球の中心都市であるこのトウキョウですら、停電が頻発するくらいなのよ。今すぐ我々にはエネルギー鉱石が必要なのよ。  エネルギー鉱山を掌握したら、すぐに会見で発表するわ。エネルギー不足が解決し、地球や地球に賛同する星々には安定した供給が可能になることを。会見はいつも通りアバターの姿でね。あの子には『信用のならないおじさん』と言われてしまったけど、清潔感のある紳士の姿を作ったつもりなんだけど……。目の見えないひ弱そうな女が地球総裁だなんてわかったら、私の支持を撤回する支持者は大勢いるだろうから。  それにしても辺境星出身の活動家の連中はどうやって私たち政府の動きを把握したのかしら? 手紙とあの子を狙って強奪を仕掛けてくるなんて。あの子にすべてが露見していたら、今日速達がここに届くことはなかったわ。  え、ヒマワリ? タナカ、何をくだらないことを言っているの? そんなもの転送しなくていいわよ。かわいそうなあの子の弟にはもう必要ない。軍に抵抗してきた連中は捕まえるよう、命じるから。それに鉱山での採掘に従事できない女子供や病人を生かしておく必要はないもの。  タナカ、私はね、この地球のように、すべての星がなってくれればいいと心の底から思うのよ。  美しくて、衛生的で、豊かで、どんな病気をも治せる、科学技術で発展した地球のように。地球総裁である私が統べる、この地球のように。それこそ、誰だって望むことでしょう?  いつかあまねく星々に私が作り上げた平和を届けたいの。  だからその目的のためには、ちっぽけで貧しい辺境の星のことなんて気にしていられないのよ。
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