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花火のあと
「唯菜、どうしてここに!」
物陰から現れたもうひとりの幼なじみに、翔は驚いた。
「私も、もう一度やり直したかったの、今を」
ちはやからさっきLINEでこの場所を教えてもらう前から実は知ってて、ふたりの今のやり取りを最初から全部こっそり聞いていた、とは言えなかった。
「私も…翔のことが…ずっと好きで…」
自分の声が震えているのを自覚すると、唯菜は涙をこらえられなくなった。
「ちはやにはかなわないって、わかってた」
翔が狼狽えている。唯菜が翔のことを好きだとは微塵も気づいていなかったらしい。ちはやに夢中すぎるでしょ、と苦い涙の中に、諦めだけじゃない複雑な雫が混じるのを感じた。唯菜からすると、幼なじみふたりはどちらも鈍感で素直で憎めなくて、だいじにしたい存在だった。やっぱり、かなわない。
「でも、それは今は、だから!」
ぐい、と手の甲で涙を拭くと、おなかに力を入れて胸を張る。花火の音に負けない、大声をあげる。
「いつか、恋せずにはいられなくするから!」
そう宣言すると、胸からひとつだけ棘がはらりと落ちたような気がした。
「じゃあ、これから作戦会議だね!」
ちはやがぱん、と手を打ってふたりを交互に見た。
「修学旅行の事故、みんな死ぬわけにはいかないよね!」
ああ、と頷いて、翔はもっともらしく腕を組んだ。
「俺がトイレにこもって、バスの出発時間を遅らせるかなー」
「置いていかれたらどうするのよ!」
唯菜がいたずらっぽく笑って翔を小突いた。つられてふたりも笑う。3人揃って見られたこの花火を、きっと忘れないと思う。花火は終盤の盛り上がりを見せていた。
帰り道、翔はちはやに聞かずにはいられなかった。吉岡と自分との告白との違いを。
「ん…、うまく言えないけど、翔に言われたときのほうが、嬉しかった」
思わずスキップすると、唯菜から軽く肘鉄をくらったのだった。
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