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店員の言葉に、僕は思わずレジを向いた。
肩の高さに切り揃えられた黒髪に丸い眼鏡をかけた女性店員は先程からじっと立ったまま動かない。前髪は眉の下あたりで真っ直ぐに揃えられていて、軽く俯いているせいで表情は窺えなかった。
僕は信じられない気持ちでもう一度本棚に目を戻す。
先程見つけたファンタジー小説の棚には、通し番号が振られた同タイトルの本が数冊並べられている。
しかしそこには最終巻だけが含まれていなかった。
この本はシリーズもので、最終巻の発売前に僕は中学校を卒業してそのまま追いかけることを止めたため読めずじまいだったのだ。
「この店の広さは訪れた方の読んだ本の数によって変わります。お客様は本がお好きなようですね」
遠くに立つ店員が微笑んだように見えた。
確かに小学生で読書の楽しみに目覚めた僕は、中学、高校、大学、社会と、様々な小説とともに人生のステージを歩んできた。
ここにあるのは本当に僕が今まで読んできた本だというのか。にしてはなんだか少ない気もする。
他にも疑問はあった。
「でも僕が読んだ本より薄いんですけど」
僕の目の前にあるファンタジー小説は大長編物で一冊がとても分厚かったはずだ。机の引き出しに入らず困ったのを憶えている。少なくとも上の段にある恋愛短編集と同じ厚さではない。
知らぬ間に文庫化したのかもしれないし、それに伴って本のサイズや表紙のデザインが変わることはあるかもしれない。
けれど本の厚みはそう変わらないだろう。ましてや今まで読んだ本がすべて同じ厚みなんてあり得ない。
訝しげな僕の問いに、店員は平然と答えた。
「ここは一行本屋ですから」
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