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牢獄からの解放
それからのフレッドの行動は早かった。
アレイス殿下と国王陛下に今回の件を直訴して、
フローラ嬢の罪を皆の前でつまびらかにしたのだ。
フローラ嬢の罪。
それは、フローラ嬢には
アレイス殿下以外にも恋人がいたということ。
つまりは2股だ。
そして、王妃の座が欲しいあまりに
自分を毒殺しようとしたと私を
牢に追いやり殺そうとした。
フローラ嬢は私と入れ替わりで
地下牢に投獄されることとなった。
フレッドからそう聞いた。
牢から出るとき、私に酷い態度を取った衛兵達は
ビクッと肩を震わせていた。
当然だろう。今までの態度を
罪に問われるかもしれない。
きっと彼らはそう思っている。
「この地下牢では随分とお世話になりましたね。
カルロス、ショーン」
名前を呼び、優雅に微笑んで見せると彼らは
さらに青くなった。
そんな彼らに悪役のように微笑んだ私は
身を翻し、牢獄から青空の広がる世界へと
解放された。
草花が膝丈まで生い茂り、
夏の爽やかな匂いがする。
世界が数日前とは違って見える。
色褪せていた世界が新鮮で美しいものとなっている。
心に新しい風が吹いたような気分だ。
これはきっとフレッドのおかげね。
……フレッドを信じて良かった。
感謝してもしきれないわ。
内側から力がみなぎってくる。
もう、前の弱い私じゃない。
「アルメリア……」
視線を斜め後ろに向けると
申し訳なさそうな顔をしているアレイス殿下が
目に入った。
「まあ、殿下。いらっしゃったのですね」
わざとらしく驚いて見せると
アレイス殿下は戸惑っているかのように
目を泳がせた。
私が怒っていると思っているかもしれないわ。
でも違うのよ。
私は新しい自分へと生まれ変わったの。
「アルメリア、君には悪いことをした……。
地下牢で酷い目に遭わなかったか!?
本当に申し訳ないことをしたよ」
「……殿下。私、あの日までは
あなたを愛していました。
でも、……今回のことで殿下への信頼は
地の底へと墜ちました。
今更謝らないでください。
私のお父様やお母様、
兄だって怒っていることでしょう。
もう2度と、あなたを愛することはありません
さようなら、殿下」
「待ってくれ」
その言葉に仕方なく振り返る。
「お願いだ、アルメリア。
どうか、あと1回だけでいいから
俺を信じてくれないか?」
みっともなく私のドレスの裾にしがみつき
涙を溢すアレイス殿下。
この人は一体何を言っているのだろう。
婚約者がいながらも恋人を作り
挙げ句の果てには私を罪人などと
のたまわったくせに。
「あれ? 『あと1回などない!!!』
だったのではございませんか?」
そう言って私は殿下の顔を覗きこむように屈む。
涙を流すアレイス殿下はグッと唇を噛み締める。
その様子は婚約破棄された時の私とよく似ていた。
だからこう言ってやったわ。
「馬鹿な人ですね。あと1回だけだとしても
あなたを信じるつもりも、愛することもありません」
あのときの殿下の言葉を今お返しします。
絶望の表情を見せた殿下が
崩れ落ちて地面に手をついた。
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