婚約破棄

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婚約破棄

「アルメリア・ローレンス伯爵令嬢! 君との婚約は破棄する!!」 シャンデリアが煌めく大広間にて。 栗色の髪に青い瞳をした美少年が 私に向かって手をかざした。 隣には顎までの赤い髪の令嬢が肩を抱かれている。 その表情にはいかにも悲劇のヒロインらしく 大きな瞳に涙を浮かべていた。 「…殿下、いきなり何を仰っているのですか」 私は状況を理解できずに呆然と呟いた。 後ろの貴族たちが何ごとかとざわめいている。 今日はこのシーフェルド王国学園の 卒業パーティーだ。 私、アルメリア・ローレンスは伯爵令嬢だ。 卒業して2年後には目の前にいる王太子、 アレイスと結婚をする仲である。 ……それなのになぜ、 殿下の横に男爵令嬢であるフローラがいるのか。 到底理解ができなかった。 「君は、フローラ嬢を虐めていたらしいな。 失望したよ、僕の婚約者だというのに」 私が、フローラ嬢を虐めていた? 周囲が大きくどよめき、噂話が飛び交う。 私はフローラ嬢をいじめてなどいない。 「殿下、私はフローラ嬢を虐めてなど……」 「嘘よ!」 フローラ嬢は涙を浮かべた瞳で キッと私を睨む。 「私はアルメリア嬢に酷いことを言われました!! お茶の作法がなっていないだとか、 人の婚約者にベタベタとくっつくなだとか 私、もう毎日が辛くて……」 「フローラっ!それ以上言わなくていいっ……」 アレイス殿下はフローラを抱きしめる。 そんなアレイス殿下に胸がキュッと締め付けられた。 やっと分かった。 アレイス殿下は私を愛してなんかいないのだ。 目の前の、可愛らしい令嬢のことが好きだから こんな私と別れたいのだと。 そもそも、私はフローラ嬢に意地悪をした 覚えなどない。 お茶の作法のことは、平民から貴族令嬢に なったばかりの彼女に教えてあげようと思っただけで 他意はない。アレイス殿下とあまりにも親しげに 話すから、「婚約者がいる方に、 親しげに話しかけてはいけませんよ」と 注意しただけなのに、 なぜこんなことになってしまったのだろうか。 アレイス殿下が幼い頃は違った。 2人の間にこんなに距離はなかった。 それなのに……。 目尻に涙が浮かぶ。 「貴様は、あろうことか、 フローラに毒を盛ったそうだな」 え? 勢いよく顔を上げて殿下の顔を見ると ゾッとするほどの憎悪が私を貫いた。 「な、何を」 そんなことしていない!と口を開く前に 殿下が声を上げた。 「衛兵! 罪人を捕えよ」 「何をするのっ!」 私の両脇が衛兵に固められる。 「殿下!ご乱心なされたか! 私の娘が毒を盛るはずがないだろうっ!」 お父様が席から立ち上がり、 抗議しているのが見える。 私を冷たく見下ろすアレイス殿下を見て もう、あの頃には戻れないのだと知ってしまった。 「悪女、アルメリア・ローレンス。 何か申し開きはあるか?」 私は殿下を、アレイスを見つめた。 「…あと1回だけでいいから 私を信じてくださいませんか?」 無駄な足掻きだとは分かっていた。 けれど、そう言わずにはいられなかったのだ。 「馬鹿な女だ、あと1回などない!!」 私の最後の希望の糸は完全に焼き切れた。
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