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タクシーを捕まえようと、大通りへ向かって歩く。バーでのやりとりが頭を巡って、唇を噛み締めた。
蓮の初ドラマ出演となった作品は、視聴率は悪くなかったものの、蓮個人に対する評価は散々だった。
毎日欠かさず演技レッスンに通い、台本がぼろぼろになるまで何度も読み込んだ。それでも結果は、所詮顔だけのモデルだねと一蹴された。
悔しかったけれど、それと同時に「やっぱり」とも感じた。どれだけ努力しても、自分は結局この程度だ。
ため息をつくと、ポケットでスマホが震えた。父親の秘書からのメールだった。
選挙活動が始まるので、国会議員の家族である自覚を強く持ち、再選への支援をしてほしいと書かれている。要は、父の選挙期間中は騒ぎを起こさず大人しくしていろ、ということだ。
蓮の父親は、元俳優の現都議会議員だ。数年前に出馬し当選。以後、連続して当選を果たし、政治家としてのキャリアを積んでいる。
母親は今も現役で活躍する女優で、多くのドラマや映画に出演し、その美貌と演技力で幅広い世代から支持を得ている。
そして一人息子の蓮も、両親から受け継いだ優れた容姿を活かし、華やかな芸能界で活動中。
表向きは理想的な夫婦、家族として知られているけれど、実際の家族関係は冷え切っている。都内の豪邸は、手入れをするためのハウスキーパーしか出入りしていない。両親はそれぞれ別邸があるし、蓮も一人暮らしのマンションを借りている。家族が揃うことは滅多になく、あったとしても、カメラの前で、仲良し家族のパフォーマンスをする時だけだ。
蓮は幼い頃、カメラの中の世界が好きだった。カメラが回っている間は、両親は仲良く笑い合い、いつもはお手伝いに任せきりな蓮のことも構ってくれる。
そんな思い出があったから、蓮もこの業界を選んだのかもしれない。けれど、カメラの中もつまらない現実と変わらなかった。
両親のご機嫌とりでチヤホヤされて、陰では「七光りで顔だけのお遊戯俳優」と笑われる。
大学を卒業した後も、なんとなく芸能活動を続けているけれど。仕事はもう、いつ辞めてもいいと思っていた。
――辞めたところで、他にやりたいこともないけれど。
何もかもが中途半端で、ただなんとなく日々を過ごしている。でも、蓮の周りも似たような人間ばかりだ。
蓮は秘書からのメールに、わかりましたと返信する。帰ろうかと思っていたけれど、やっぱりやめた。
クラブかどこかで飲み直すため、空車ランプの灯るタクシーに手を挙げた。
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